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こじらせてません
第4章 拘繋
淀みのない所作に感心しつつ、ミサも頭を下げると、常務は満足げに手を振って去っていった。
「予定通り、お車代ゲット、と。あーあ、ったく、何回胸見てくるの、あのエロオヤジ」
常務が視界から去ると、理絵子はそう呟いた。
ツイート内容はともかく、周囲にはまだ通りがかる社員がいる。誰が見ているかわからないので、柔和な表情を保っていた。
「予定通り?」
「そー、常務のスケジュール見たら会食になってたから、早めに張ってたの」
さすがだ。
理絵子には、もっと他に向いている職業があるのではないだろうか。
この人さえ、同じ会社にいなければ、アキラとのことを知られることはなかったのに……いやダメだ。よく考えたら理絵子のGJがなければ、自分はアキラに出会う事はなかったのだ。
短いあいだに、あまりの己の身勝手さと浅慮を恥じていると、
「ま、あのエロオヤジは、チーフ様のほうがタイプかなー。ほら、ボーッとしてても仕方ないからいきますよー」
理絵子はさっさと歩き始めた。
とにかく自分本位の振る舞いだが、ここで置いていかれては何のために待ち合わせたのかわからない。
「お肉でいいよねー? ていうか、私、昼からずっと口の中が完全にお肉になってるから、ダメだって言われても困るけど」
「あ……うん、大丈夫」
「口の中がお肉」ってどんな状態だろう、と思いながらタクシーへ乗り込むと、理絵子は運転手へ行き先を告げてから、電話をかけ始めた。
「……あ、三宅でーす。今から行こうと思うんだけど、席あるー? ……二人。……うん、……えー、個室あいてないのぉ? どうする?」
これから向かう店にかけているらしい。
最後の言葉はミサへ向けて言ったものだった。
運転手へ行き先を告げる行為と、電話をかける行為は、順序が逆ではないのかと思ったが、口には出さず、目礼をして構わない旨を伝えた。
「いいのぉ? ナイショのオハナシできないよぉ? ……ま、いっかー」
陽がほぼ沈んで薄闇となっている車内には、もう会社の人間の目も耳もない。
ミサは窓の外へと目を向けた。
(ナイショのオハナシ、か……)
辞表を用意しておいたほうがよかったかな、と思った。いや、自分は常務ではなかった。書くなら退職願だ。
「予定通り、お車代ゲット、と。あーあ、ったく、何回胸見てくるの、あのエロオヤジ」
常務が視界から去ると、理絵子はそう呟いた。
ツイート内容はともかく、周囲にはまだ通りがかる社員がいる。誰が見ているかわからないので、柔和な表情を保っていた。
「予定通り?」
「そー、常務のスケジュール見たら会食になってたから、早めに張ってたの」
さすがだ。
理絵子には、もっと他に向いている職業があるのではないだろうか。
この人さえ、同じ会社にいなければ、アキラとのことを知られることはなかったのに……いやダメだ。よく考えたら理絵子のGJがなければ、自分はアキラに出会う事はなかったのだ。
短いあいだに、あまりの己の身勝手さと浅慮を恥じていると、
「ま、あのエロオヤジは、チーフ様のほうがタイプかなー。ほら、ボーッとしてても仕方ないからいきますよー」
理絵子はさっさと歩き始めた。
とにかく自分本位の振る舞いだが、ここで置いていかれては何のために待ち合わせたのかわからない。
「お肉でいいよねー? ていうか、私、昼からずっと口の中が完全にお肉になってるから、ダメだって言われても困るけど」
「あ……うん、大丈夫」
「口の中がお肉」ってどんな状態だろう、と思いながらタクシーへ乗り込むと、理絵子は運転手へ行き先を告げてから、電話をかけ始めた。
「……あ、三宅でーす。今から行こうと思うんだけど、席あるー? ……二人。……うん、……えー、個室あいてないのぉ? どうする?」
これから向かう店にかけているらしい。
最後の言葉はミサへ向けて言ったものだった。
運転手へ行き先を告げる行為と、電話をかける行為は、順序が逆ではないのかと思ったが、口には出さず、目礼をして構わない旨を伝えた。
「いいのぉ? ナイショのオハナシできないよぉ? ……ま、いっかー」
陽がほぼ沈んで薄闇となっている車内には、もう会社の人間の目も耳もない。
ミサは窓の外へと目を向けた。
(ナイショのオハナシ、か……)
辞表を用意しておいたほうがよかったかな、と思った。いや、自分は常務ではなかった。書くなら退職願だ。