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こじらせてません
第4章 拘繋
入社以来、バチバチとやってくる彼女にとって、アキラと自分が付き合っているなんて、ネギを背負った鴨が夏の虫を火に追い立てているのを見つけたようなものだろう。薄闇の中の眼光は、永代通り沿いに点き始めた、どの街明かりよりもギラついていた。

中高時代に校則があったように、ミサが務める会社にも当然、社規社則というものがあった。その一つとして、労基法にもとづき、就業規則が定められている。服務規律には「会社の信用を傷つける行為をしてはならない」と規定されており、懲戒の事由では「私生活上の非違行為」についても触れられていた。

アキラは不世出かつ絶倫ながら、青少年であるため、条例違反となる可能性があるのは、質問サイトのリプライの通りだった。

だが、逮捕されようがされるまいが、アキラは社会学習に訪れた高校生であり、ミサは職務の一環で彼と関わった。立場を利用して、肉体関係を持ったのである。この事実のみでも充分、抵触する可能性があった。それに、就業規則に謳われていようがいまいが、そして、懲戒の対象になろうがなるまいが、理絵子が広報で培った情報発信力をフルに発揮したなら、さすがに会社にとどまるだけの度胸はなかった。

(……でも、なんでだろ)

理絵子が、自分とアキラとの関係を知った経緯もさることながら、それを知ってすぐに自分を破滅へと追い込まず、飲みに誘ってきている点が不可解だった。

なんにせよ、彼女のペースに飲まれつつある。
飲み込まれないようにしなければ――

『今日、飲みに行くことになったの。遅くなるね』

アキラへメッセージを送った。

ついでに、GPSアプリを開いた。
渋谷を指していた。まだ学校にいる。

『わかりました』

返信が素っ気なく見えた。

ミサは溜息をついて、

『ごはんは適当に食べてね。
冷蔵庫、あまり何もなかったと思うので、ゴメンね、デリバリとかで。
寝室のチェストに少しお金置いてあるから、それ使って。
・・・ゴム入ってるとこの上の引き出し(笑)』

と送った。

『自分で出します』

スベろうがスベるまいが関係なく、「かっこわらい」を送ったのであるが、またしてもアキラは素っ気なかった。
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