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こじらせてません
第4章 拘繋
『おうちに食べに帰っちゃだめだよ』

……。
気がついたら、「送信」を押してしまっていた。

『わかっています』

もちろん、約束ですから、わかっていますとも。
わかってるよ、もう、いちいち、うるさい女だなあ。

……。
ミサの中で、二つの解釈が成立した。

『他の女とごはん食べちゃだめだよ』

……。
気がついたら、また「送信」を押してしまっていた。

『はい』

体感として、二文字であるのに、先ほどの「わかっています」の七文字よりも返ってくるのが遅かった気がした。「はい」のあとに略されている言葉が、うようよと浮かんでくる。

『いまだれといるの?』

……。
もはや気がついたらという言い訳は自分自身に通用せず、確信的に、震える指で送信したところで、

「ダーリンにメッセ?」

理絵子もまたスマホを操作したまま、こちらを見ずに言ってきた。

「……」ミサは努めて無表情に、「ね、三宅さん」
「なあに? チーフ様」

脚を組んで、相変わらず不気味な仄笑みを向けてくる。

対等に渡り合うためにミサも脚を組みたかったが、前列シートとの間隔が狭すぎてできなかった。なので「美しい座り方」のまま顎を少し上げて腕組みをするという、最近身につけた態度を取った。

「なんで、私とアキラくんが――」

なかなかうまくいかないものだ。

タイミング悪く、タクシーはホテルの車寄せへと入っていった。理絵子が行き先を告げたとき、不勉強ながらホテルの場所がわからなかったから、距離を把握できていなかった。

理絵子が予約していたのは、エレベーターの扉が開いた瞬間、フロアの趣が異なって見える、高層階のダイニングだった。

入口でスーツの男に出迎えられる。
名乗らずとも案内してくれるところをみると、理絵子は普段から、この店に来ているようである。

理絵子のホームグラウンドに連れて来られたということだ。

飲まれてはダメだ。

カウンターへと、案内された。
目の前には、ダウンライトを反射している、清磨された鉄板。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

シェフが前に立った。

お肉、って、鉄板焼きかい。
たしかに、これではナイショのオハナシがしづらい。

理絵子はそれでも構わないということか。
だが場の空気に、飲まれてはダメだ。
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