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こじらせてません
第4章 拘繋
ミサは理絵子が咀嚼と嚥下を終えるのを待った。

理絵子とサシで食事をするのは今日が初めてだった。思いのほか、咀嚼と嚥下に時間をかける人であることがわかった。

……よって、イライラしてきた。

「――ちゃんと教えて。もしかして、尾行とかしてるの?」

「そんなサイテーなことするほど、ヒマな女じゃないしー」理絵子は声に出して笑い、「……とりあえず、食べてもらえない? チーフ様が食べないと先に進んでかない。私、お腹すいてるの」

どういうわけだか貶された気分になって、ミサはおおげさに鼻息をついた。箸をつけなければ話を続けてくれそうにない。しかたなく、理絵子のすすめにしたがった。

「話はカンタン。ウチのパパとアキラくんのお父さん、仲いいの。大学の時の先輩後輩でね。昔から家族ぐるみのお付き合い、ってやつ?」理絵子はナプキンをはんでリップを整えると、グラスで喉を潤し、「昨日ね、一緒に食事したんだ。残念ながら、パパは急用で来れなくなったんだけど。アキラくんのお父さんと、お姉ちゃん。それから、お父さんの再婚相手。その人を紹介してもらうための、食事会だったのよね。とーぜん、『あれ、アキラくんはー?』ってなるじゃん? そしたら――会ったことあるんでしょ? ミソラちゃんが、ぜーんぶ話してくれた」

なるほど。
なるほど、なのだが……。

「アキラくんのお父さんも、……きいてたの?」
「そりゃそうじゃん。一緒に食べてんだもん」

アキラの父親は厳しい人である、というイメージを持っている。我が息子が、一回り年上の女とつきあい、しかも一緒に暮らしていると知れば、激怒しているに違いない。

「怒ってた、よね。アキラくんのお父さん」

理絵子は肩をすくめて、首を振った。

「そーでもないよ。おじさまって、けっこう大らかな人だから。『おとなしいから心配してたが、理絵子ちゃんと同じ歳の女性をモノにするなんて、やるじゃないか。安心した』って。よかったねー、お父さんには気に入られて」

大らかというか、もっとしっかりしたほうがいいと思う。

そんなだから、これから結婚しようとしている婚約者に、息子への下心があるなんて思っていないのだろう。それに、娘が弟を使って大人の階段を登ろうとしていることにも。
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