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こじらせてません
第4章 拘繋
「っていうか、どっちかっていうと、ミソラちゃんと、トモミさん、あ、新しいお継母さんのことね、二人がカンカンだったなー」

いや、お父さんの大らかさや、二人のカンカンぶりはどうでもいい――

「で、それを聞いて、三宅さんはどうしようっていうの?」
「どうしよう? ……チーフ様は、どうするぅ?」
「チャカさないで」
「ちがうちがう、お肉お肉。私、フィレの150、レアね。チーフ様は?」
「……同じで」

なかなかうまくいかないものだ。

アクセルを踏もうとしたところで、またはぐらかされた。
やはり、理絵子は手強い。

ミサは頬の熱さを冷ますようにワインを煽った。
形勢を変えたい。

「どうでもいいけど、そのチーフ様って呼び方、いいかげん、やめて欲しいの」

チーフに昇格してから使用されている呼称。もちろん敬称というより、小馬鹿にされている感があった。

「でもチーフ様、名前で呼ばれるの嫌いなんでしょ?」
「高橋さん、で、いいじゃない」
「んー、それじゃつまんない。じゃ、さ、ミサ、って呼んじゃっていい? 私だけ名前で呼んだらおかしいしから、理絵子、って呼んでくれてもいいよ。同期なんだし」
「……」
「……。呼ばせてくれなきゃ、言いふらしちゃおっかなー」

名前に触れて、怒らせることで判断力を狂わせようとしてきている。
こちとら、お見通しだ。

「呼びたければどうぞ。言っとくけど」ミサは髪を耳にかけ、「社内に言いふらしても、無駄だから。そんなことになったら、会社やめるし」

すると初めて、理絵子が眉間を寄せた。

「ミサ、マジで言ってるの?」
「もちろん。みや、け……」対等だ。さん付けなんかで呼ぶ必要はない。「り、り、理絵子が、私をおとしいれようって魂胆なのは、わかってるんだから」

だいぶん噛んでしまったが、言ってやった。

理絵子はクルッと正面を向いた。おそらく念入りにケアしているのであろう睫毛を、ゆっくりと上下させて、瞬きをした。

(あれ……)

横から見ているとよくわかる。
一度結んだ唇も、理絵子に合ったはっきりとした黒目も、少し震えていた。

言いすぎてしまったのだろうか?
こんな不躾な言い方したことなかったから、加減がよくわかっていなかった。

「……まっさかー」

ミサが己のスキル不足を心配していると、理絵子がブッとふきだした。
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