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こじらせてません
第1章 捕縛
であるならば、ふと目に止まったマンガの通りに、安原はミサを抱くべきだった。いわんや、ミサは主人公たるバリキャリの通りに抱かれる。

その方が没入感が増すと判断した。ストーリーは頭に入っている。キレイな絵は、この場合、むしろジャマだ。

これは妄想ではない。
妄りに思念しているわけではない。何もかも計画的だ。

「……あのさー」

デスクの隣に座っていた安原は、肘をついた横柄な姿勢で、ミサを睨んできた。フロアには誰もいない。二人の頭上のみ、蛍光灯が灯っている。

重要な仕事がピンチ。ミサのキャリアがかかっていた。プライドが高いから、素直に「手伝ってくれ」と言えず、孤軍奮闘してきたが限界があった。

悩めるミサに、安原だけが気づき、手を差し伸べてくれた。おかげで目処がついた。明日を乗りきれば、成功裡に終わるだろう。

何かお礼するね。何か欲しいもんとかある?

手伝ってもらっている間に少しは獲得した素直さで礼を言うと、安原が居住まいを正した。

「お前がいいんだけど」

頬に朱がさしたが、咳払いをして、

「バッ……、バカ、冗談キツいよ」
「冗談?」

というところからの、「あのさー」だった。

「お前、わかってて言ってんだろ」
「な、何が……?」
「俺の気持ちくらい、とっくに気づいてんだろうが。そんだけ仕事できんなら」

キャスターを利用して、迫ってくる。
ミサもキャスターを利用して、後退したが、机の足がこれを妨げた。

「ちょ、や、安原、やめ……」
「冗談だ、っつーなら、ひっぱたけよ」
「あっ」

腕を取られ、引き寄せられると、キャスターが前に転がり、安原の椅子と衝突した。

質量的に難しいと思われるが、慣性を上回る何かが作用したということにしておこう、彼の胸の中に飛び込む形になった。

慌てて立ち上がろうとしたが、抱きしめられてできない。唇が近い。

「ひっぱたかないのか?」
「……」

黙っていたら、もちろん唇を吸われた。肩についた拳で押し返そうにも、力が入らない。

「舌、出せよ」
「えっ……」

つぐんでも、唇をはまれると、緩む。もちろん舌が入り込んできた。

だめだ。このままでは。
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