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こじらせてません
第4章 拘繋
さすがに、肉の上にワサビを乗せていた理絵子の箸先が止まった。

「やっぱり壊れてる。本格的によっぱらった?」
「ううん、事実。脚にキスしたがる」

クローズ質問で導いてばかりだが。
だがウソはついていない。

「ふんづけてあげちゃったりしてるの?」
「かもね」

あげちゃったことはないから、可能性の示唆にとどめた。
ウソはついていないことになる。

「でも、なんか、アキラくんぽいね。膝枕、好きだったもん」
「……したことあるの?」
「まだちっちゃい時に、家で預かってたりしたからね。眠くなるとウリウリしてきて、どーぞ、ってしてあげると、コロンってすぐ寝ちゃうの」

(……むう……)

不条理な敗北感からくる暴力はやつあたりであり、質料がいかなるものであれ、発揮してしまえば敗北が決定的となる。自訓したばかりだ。

「ミサってば脚キレイだもんね」理絵子も座ったまま、シェフやウェイターの目も気にせず、ホワイトスカートから片脚をニュッと伸ばした。「脚エステ、ずっとやってるんだけどなー。でも長さではかなわないかー」

(……むむう……)

金をかけてるだけあって、おキレイな脚ですね。

戦力差を埋めるためには、武器性能係数Eを高め、局地戦へ集中するべきである。
ミサはそう思った。パッと思いついたのが、脚だった。

だが残念ながら、圧倒的優位を誇る武器とは言い難かった。

他にないか……。
そんなことを考えながら、ミサも箸を進め、グラスを煽っていった。

……。

「やっぱミサ、お酒そんなに強くないんだね。意外ー」

コースが終わったところで、理絵子がそんなことを言った。

たしかに、耳の後ろで脈拍が刻まれていた。

最後に頼んだお茶をすする理絵子は、顔色はまったく変わっていなかった。

「デカいから、回りが遅いはず、っていいたいの?」
「やーん、そんなこと言ってないよー。酔うと壊れるし、絡んじゃうタイプだー」

顔色は変わっていなかったが、理絵子のゴキゲン度は上がっていた。
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