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こじらせてません
第4章 拘繋
「そっか。私も、安原クンみたいなのはタイプじゃないなー」
「それなのに誘おうとしたの?」

「だって」お茶を飲み込んで、ふー、と息をついた理絵子は、「ミサのこと好きな安原クン、落としたら楽しいかなって思って。案外チョロそうでしょ、彼」

「楽しくないと思う。私、なんとも思わないもの」
「だよねー。アキラくんの存在知らなかったからなー、あぶないあぶない。無駄な労力つかうところだった」

少し、安原がかわいそうになってきた。

一般的にカッコいいと言われる男が、不在のおりに女たちから品定めをされるのは、マンガの中でもよくある切片だ。

宿命と思って諦めてもらう他ないが、これ以上彼を値踏みしていても、気の毒になるばかりで何の益もない。

「じゃ、このままおとなしく帰ろうよ」
「ていうか、やっぱ安原クンなんかより――」

後に続く言葉、というより、人名を言わせるのも癪だから、

「何回言わせるの? ないから」

と、かぶせ気味に言い放った。

理絵子は一瞬表情を曇らせて、詰まった。

お、少し効いたか、と思ったが、

「でもさ、私、ほんとーに、飲んでエロくなってきたの。今から、ミサの家に行っちゃおうっかなー。ダメ? ダメなら勝手に入る。……ちんにゅー。あはは、なんかエロいね、闖入って」

すぐに立て直したようで、理絵子は肩を揺すって笑った。

F大系列では、「許可なく人の家に入ってはいけません」と教えないのだろうか。

ともあれ理絵子も酔っ払っているのか、話し方が普段とは別の意味でおかしくなっている。
そろそろ潮時だ。このままでは本当に闖入を画策しかねない。

「来ないで。もう帰るね、私」
「うー。かわいいペットちゃんが待ってるから?」

その通りだ。
そして、もう挑発に乗るつもりはない。

「うん。私のこと待ってると思うし。おいくら?」

すっくと立ち上がろうとしたつもりが、フラついた。
やはり思いのほか、回っている。
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