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こじらせてません
第4章 拘繋
「ちょっと、ミサ、大丈夫? もう少し休んでったら?」
「大丈夫。おいくら?」
「私、この店で払ったことなーい。パパんとこに請求が行くんだと思う」

理絵子の言葉を聞いて、シェフもウェイターも、こちらへ会釈をした。

ここは理絵子のホームだ。
札を取り出しても、受け取ってもらえないだろうし、彼らへ代金を聞いても教えてくれそうにない。

「……こんど、ちゃんと払うから」
「いらない。お肉、美味しかったー?」

交わした会話の好悪と、シェフの腕は無関係だ。

なので、ごちそうさまでした、とシェフに向かって言うと、よかったー、と、ようやく理絵子も席を立ってくれた。

マネージャーに恭しく見送られて、外へ出る。

エレベーターのボタンを押して階数表示を見上げると、またよろけた。

(あ……)

違和感を感じて、ミサは理絵子を向いた。

「ちょっと、トイレ寄ってく。先に……」

帰ってくれ、と言おうとしたら、

「ん。私も行くー」

と、頼んでもいないのに、理絵子は腕をとってレストルームのほうへと引き始めた。

足取りが速い。何度もよろける。

「ミサ、大丈夫?」

理絵子が引っ張っているからだと指摘したかったが、酔っ払い特有の力加減の無さのせいでできなかった。

「もしかして気持ち悪い? 背中さすろっか?」
「ううん、大丈夫。そんなんじゃない、から」
「とにかく、気をつけて入って。いえーいっ、ゴー」

背中を押され、個室へと入った。

高級ホテルのレストルームだけに、広い。
幸いだな、と思って、錠を差そうと振り返った。

(……っ)

はて。

嘔気があるわけではない。
したがって、背中はさすらなくていい。

「えっと……」

ミサは髪を耳へかけた。

何を言うべきか答えが導かれる前に、理絵子は後ろ手で錠を差した。

いつもより、自分は酔っ払っている。
それは認める。

だが、自分で施錠くらいできるし、理絵子の採った施錠方法もおかしい。それくらいはわかる。



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