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こじらせてません
第1章 捕縛
ミサはもう一度スマホを手に取り、「お気に入り」の最上段に表示されている一冊に表示を切り替えた。

文字通り、お気に入りだった。閲覧回数が他のものと比べて桁違いだった。

こいつは鉄板だ。
その確信の通り、ミサは滞りなく、目的を果たし終えた。

──誠意を見せるならば、顔を合わせた際に、正式に陳謝すべきだったかもしれない。

だが現実の安原には何のことかわからないだろうし、では謝るに至る経緯を説明できるかというと、それはできない。

それに、まったく無警戒だった場所にいやがって、不意に声をかけやがったのだから、疚しさがまさって、曖昧な顔つきと返事をしてしまったのも無理はないのだ。

そう考えているうちに、安原への疚しさが薄らいできた。薄らいだところで、理絵子の番号が見つかった。

「おそーい」

出るなり、理絵子はそう言った。勝手にスケジュールしたのは理絵子なのだから、彼女には陳謝の必要はなかった。

「ウチがやってる例のプロジェクト、協力者の子、今日来てるの。お忙しそうだけど、チーフ様が来てくれないと、話すすまないんですけどー」

そんな嫌味を言う前に、今どこにいるのか言うべきだった。だから問うと、エントランスすぐの広報スペースにいる、との回答だった。

理絵子もまた同期だ。
そして入社してからずっと、ミサに敵意ムキ出しだった。

ミサは特に、理絵子に対する何の悪心も持っていなかったが、敵意を向けてくる相手に好意を向ける意味がわからないので、していない。

理絵子がバチバチとやってくるのは、安原のせいだ。

同期の中で最もカッコいいとされる安原が、最初に理絵子をマンツー飲みに誘ってこなかったのが、気にくわなかったらしい。

マンツーだというのに、何故に自分の懇親履歴がダダ漏れなのかと危ぶんだが、とにかく漏洩情報をキャッチしたらしい。

理絵子は安原へ恋愛感情を持ってなさそうだが、とにかくそういうものらしい。

そんな理由で数年も、おそらくはこれからも、敵意を維持できるのだなあ、と感心するも、理絵子らしいと言えば、らしい。

モテる。そう公言している。

イタくはない。
外見的第一印象で、男性を惹きつけるのだろうな、と率直に思う。
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