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こじらせてません
第4章 拘繋
ずさんであるがゆえに、オープン質問のデメリットが丸出しになったので、

「冗談もいいかげんにして!」

最低限の平静を保つための防衛機制が口を衝いて出た。
冗談ということにしたい、というヤツである。

すると理絵子の、

「ひどい!!」

というミサを上回る悲鳴が、レストルーム全体に響いた。

「しぃっ……、こ、声が……」
「私、ずっとずっと、我慢してきたんだよ? なんでそんなこと言うの? ひどいよ」

理絵子は首をうちふるい、涙に濁った声で責めてきた。
瞳がゆらめいている。黒目が本気だ。

にわかには信じがたい。
信じがたいが――勘案すると、やはり、そうとしか思えなかった。

「んと……み、三宅さん、って……、その、……なの?」
「やだっ、もどさないで。ミサが名前で呼ばれるの嫌いだって知ってから……、我慢してたんだよ、私。ずっと、ずっと……我慢してたんだから! うーっ、今日やっと、名前で呼び合えるようになったのに! 泣きそうなほど、嬉しかったのに!!」

ツッコんで欲しかったのはソコではなかったのだが、また喋っているあいだに理絵子のボリュームが上がっていったものだから、

「あ、うん。うんうん。ごめんね、ごめんね」

と一旦なだめるしかなかった。
理絵子が沈静化に向かったのを見はからい、仕切り直す。

「あの、だから、それで、理絵子って……そうなの?」
「どういうこと?」
「こういうこ――」

違った。
つい先ほど、自分が不用意な返答を指摘したばかりだ。

「つまり、女性のほうが好き……なの、かな?」
「べつに、女が好きとかじゃない。男の人とつきあったことある」
「てことは、バイセ……」
「わかんない。女の子を好きになったの、ミサが初めてだもん」
「んー、ってことは、パンセクシュアルってことかな」
「なにそれ? だし、どうでもよくない?」

たしかに定義はどうでもいい。

なにはともあれ、なぜ、こんな状況になっているのか、明らかになった。

同時に、……告られた。

しかし、原因が明らかになり、好意を伝えられたところで、新たな疑問符が湧くのだった。
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