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こじらせてません
第4章 拘繋
「だって、入社したときから、ずっと、なんていうか、嫌味とか、意地悪とか、そういうの多かったし……」

これまでの態度を指摘すると、理絵子は、えへへ、と照れた。

「私、ちょっとあまのじゃくだから……ほんとーに好きな人の前では、ちょっと素直になれないところあるの。でもね、今日はデートして、ちょっとお酒も入って、ちょっと素直なのかな、ちょっとは本当の自分が出せてる」

ちょっとじゃない。
振れ幅がスゴい。

「ん、そ、そうなんだ。でもね、い、今は……その……」
「どうだった? 私って、案外尽くす女でしょ? 自分でも不思議な感じ。好きな人には、尽くしちゃうタイプだったんだなー、私って」
「ち、ちがう。そういうことじゃなくて、ね」
「あれー? 尽くせてなかった?」

ここまでの理絵子を思い返してみる。

「……つ、尽くして……た、かな」

ウソをつかなかったら、理絵子の腕に力がこもった。首へ頬ずりをされる。

「でしょっ。だってさー、エロ常務がミサのことジロジロ見てるんだもん、許せなかった。守ってあげなきゃって。でも、代わりに私がジロジロ、ジロジロ、エロい目で見られちゃったよう……」

あ、それもだったんですね。

「……自分でもビックリしてるの。昔からミサみたいに背高くなりたかったし、ミサみたいな顔になりたかったし、クールでカッコいいし、仕事できるし、初めて会ったとき、なりたい私がそこにいて、すっごく……嫉妬した。でもね、安原クンとデートしたって聞いたときかな、自分の本当の気持ちにきづいたの」

「本当の、きもち……?」
「ほら、マンガとかでよくあるじゃん? 普段しのぎをけずりあってきた宿敵だったのに、だんだんと心通わせ合っていくっていう、アレ」

今また、きっと漢字が変わった。
理絵子の「ライバル」は実に多義的なのだ。

「ええと、ごめん、そういうマンガはあんまり読んだことがなくて……」

ではどういうマンガか、ということに関しては、幸い理絵子はこだわらず、背伸びをして耳元へ唇を寄せてきた。

「ねーミサぁ……チューしてたら、すっごく、エッチになっちゃった」

囁かれる。

「ん、んー、……でも、話それちゃったけど、い、いまは……」
「好きな人とキスすると、こんなに気持ちいいもんだったんだね」

知ってる。最近、自分もおぼえました。
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