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こじらせてません
第4章 拘繋
どまどましていると、片足を踏み込まれて、太ももで脚を割られた。

「すごく、くっついてるよ。からだ、熱くなってくる」

また、囁かれる。

「ちょっと待って! 冷まそ? ね?」

ミサは慌てて理絵子の腰をとらえたが、

「しぃっ……声出したら聞こえちゃう。……でも、それがドキドキするよねー……」

続けざまに、囁かれる。囁き慣れている。

「ん、んん。ドキドキ、は、してるんだけどね」
「してる? えへへ……うれしいな」
「いや、違う意味でっていうか。じゃなくてね、言いたいのはね、なかなか考えがまとまらないんだけど、あの……」

「もうっ。やっぱり、ミサっていつも考えすぎなんだよ。人は考えることによって知ることはできないんだよ。……あ、そっか……でも、考えちゃうよねぇ。私もミサのこと、いっぱい考えちゃう。ミサのこと、もっと知りたいって思う。それってワガママだけど、すっごくカワイイよね」

なんだかそれ、どこかで読んだことがある。
おかげで一つの言葉を思い出すことができた。

「ね、ねえ、理絵子。あ、アキラくんは?」
「……アキラくん?」

再び唇を近づけてきていた理絵子は、ミサを見つめて、キョトンとした。
いや、なぜにそっちがキョトンとするのだ。

「だって、奪うって、惜しみなく」
「うん、奪うよ。略奪愛?」
「わたし、NTRも、NTRRも好きじゃないし、一冊も持ってないの」
「エヌ……? なにそれ」
「ごめん、話それた。そうじゃなかった。混乱してた」

ミサは一度、咳ばらいをした。

「アキラくん、奪うって」
「うん。アキラくんから、ミサを奪う」

……。

なるほど。
主語も目的語も略しすぎると、思惑が一致しないでも、コンテキストは成立するのだ。

「……婚約してる、って知った時、諦めようと思ったの。諦めたかったの。はやく結婚してほしい、って思ってた。私も誰かと恋して、とっとと忘れようとした。でもね、どんな彼氏作っても長続きしないの……ミサのこと、忘れられないからだって思った」
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