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こじらせてません
第4章 拘繋
Mだの、ドMだのと執拗だ。

ヒロインはキリリとしない顔つきで後輩クンを見返すが、まあ、断らないし、握りつぶすわけでもないし、噛みつくわけでもないし、頭の中の様々の葛藤は保留にして、言われるがままにするのである。

恬淡とではなく、情熱をこめて。

だいたい、ヒロインの秘密を握って――その秘密もおおよそ性的羞恥心をかき乱すものであるのが通例だが――脅迫してくるのは、後輩クンである。

年齢が上の者は、そんな迫り方をしない。悪しき年功序列とやらはともかくとして、マンガに登場する年上男は職位でも上であるから、立場を利用して迫ってくる。第三者から見れば完全なるセクハラ、ないしはパワハラだが、相談窓口に駆け込まれるという切片は提示されないものだ。

どだい、年上の男が弱みを握って肉体関係を迫って来ようものなら、いくらシブメンだろうが、職位が上だろうが、仕事がデキようが、いい歳してそうでもしなきゃ若い女をモノにできんのかい、という失望とともに本を閉じるだろう。

ともあれ、脅迫によって被虐願望を暴いていくのは、だいたい後輩クンであり、ヒロインは、最終的には己の気質を認め、彼の前に身も心も投げ出していくのである。

投げ出していくのであるが、投げやりではない。
そのときにはもう、恋情に裏打ちされている。

そもそもヒロインは、切片の提示当初から仕事本位の生き方にいくばくのむなしさを感じている。なにがあったのかはナレートされたり、されなかったりするのであるが、とにかく、自嘲気味に今の自分を内省しているところから始まり、後輩クンはそんな心の隙間を突いてくるのである。

決して、ヒロインは脅迫に屈するわけではなく、MだMだと繰り返し唱えられることで、暗示かかってしまうわけでもない。

高橋さん、ほらもう、こんなになってる。
高橋さん、ガマンできないなら、オネダリしたらいいじゃないですか。
高橋さん、本当は、こういうことが大好きなんでしょう。

なんだっていいのである。

実は、こんなになってなかろうが、
実は、ガマンできちゃう程度であろうが、
実は、こういうことが大好きだというほどではなくても、
そんなことは、どうでもいいのである。
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