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こじらせてません
第1章 捕縛
4
化粧品業界は、「美への希求心」で支えられている。
そもそも、人間の化粧行動の目的は様々な切り口で研究されており、様々な見解が示されているが、集約をみていない。
ミサ自身は、そう思っている、ということだ。
通っていた女子校では、宗教的人間観に基づいて、「人は身も心も清らかに、美しくあれ」と促されていた。「べし」論だ。
いっぽう、化粧は禁ずる校則があった。「べからず」論である。
一見、まったく矛盾するようだったが、「身も心も清らかに」とは、物質的な意味ではなく、観念的な意味だと捉えることができる。ただそれは、「できるだけ」であり、ミサの腹の底はモヤついていた。
しかし従うことはできた。なにより「べからず」と言っているのだから。
ナチュラルメイクというものが世の中にあることは知っていた。同級生の中にも、さもノーメイクのように見えるメイクをしている子はいた。
だが、先生の目をたばかることができたとしても、校則には違反している。
条文は、「スッピンではないように見せてはならない」ではなく、明確に、「化粧をしてはならない」だからだ。
美への希求心はミサにもあった。したがって化粧をしたくなかったわけではなかった。むしろ、してみたかった。
ただ、見つからなければいい、という考えは、やがて歯止めがきかなくなるから危険だ。そんな陳腐な警告は、明確に教えられるまでもなく、いつのまにやら体得できるものだし、あるいは祖母のことだから、どこかで明確に教えたかもしれない。ともあれ、危機意識を持っていることじたいが重要だった。
大学に合格して、引越しをし、入学式を控えていたとき、ミサは化粧をしようと考えた。
これは危機意識の欠如ではない。卒業しているということは、校則の適用対象外となっている。
大学へ入ると、新たに多くの人々と出会うことになった。入学前のオリエンテーションで周囲を見回すと、女子学生は皆、化粧をしていた。
よって、「人から美しく見られたい」という他者承認欲求と、「自分を美しくしたい」という自己承認欲求の、両方を携えて、ミサは百貨店へと赴いた。
取り揃えるにあたり、多額の費用を要したが、欲求の満足に釣り合うものだった。
ベタ褒めだった。
化粧品業界は、「美への希求心」で支えられている。
そもそも、人間の化粧行動の目的は様々な切り口で研究されており、様々な見解が示されているが、集約をみていない。
ミサ自身は、そう思っている、ということだ。
通っていた女子校では、宗教的人間観に基づいて、「人は身も心も清らかに、美しくあれ」と促されていた。「べし」論だ。
いっぽう、化粧は禁ずる校則があった。「べからず」論である。
一見、まったく矛盾するようだったが、「身も心も清らかに」とは、物質的な意味ではなく、観念的な意味だと捉えることができる。ただそれは、「できるだけ」であり、ミサの腹の底はモヤついていた。
しかし従うことはできた。なにより「べからず」と言っているのだから。
ナチュラルメイクというものが世の中にあることは知っていた。同級生の中にも、さもノーメイクのように見えるメイクをしている子はいた。
だが、先生の目をたばかることができたとしても、校則には違反している。
条文は、「スッピンではないように見せてはならない」ではなく、明確に、「化粧をしてはならない」だからだ。
美への希求心はミサにもあった。したがって化粧をしたくなかったわけではなかった。むしろ、してみたかった。
ただ、見つからなければいい、という考えは、やがて歯止めがきかなくなるから危険だ。そんな陳腐な警告は、明確に教えられるまでもなく、いつのまにやら体得できるものだし、あるいは祖母のことだから、どこかで明確に教えたかもしれない。ともあれ、危機意識を持っていることじたいが重要だった。
大学に合格して、引越しをし、入学式を控えていたとき、ミサは化粧をしようと考えた。
これは危機意識の欠如ではない。卒業しているということは、校則の適用対象外となっている。
大学へ入ると、新たに多くの人々と出会うことになった。入学前のオリエンテーションで周囲を見回すと、女子学生は皆、化粧をしていた。
よって、「人から美しく見られたい」という他者承認欲求と、「自分を美しくしたい」という自己承認欲求の、両方を携えて、ミサは百貨店へと赴いた。
取り揃えるにあたり、多額の費用を要したが、欲求の満足に釣り合うものだった。
ベタ褒めだった。