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こじらせてません
第4章 拘繋

「じゃ、感じるままにしてみて」
「だ、だから、そんなことしたら……」
「あー、もうっ!」
ミサは話しているあいだ、何度も耳へ髪をかけていたが、いったん両手で顔を覆い、髪をすべて後ろへかきあげた。
「メチャクチャにしてっ、って言ってるのっ!」
マンガの中で、女性登場人物がイケメンへ向かって同じセリフを吐いている切片には、けっこうな心当たりがある。
そんな不用意なことを言っていいものだろうかと、読むたびに欲情の中にも心配が影を落としたものだったが、いざ自分で言ってみると、そんな懸念はまったく芽生えないのだった。
だが、マンガの中のイケメンは、そのひとことでガバッとくるものだったが、アキラはこなかった。
「……、……えっと、アキラくん」
「はい」
「いま私、相当な恥ずかしさをおして、言ったんだけど?」
「ご、ごめんなさい」
「あやまられると、よけいにこたえちゃうんだけど?」
「ご、ごめんなさい」
「それでも、ガバッとこないの?」
「い、いえ……」
ガバッとこないのか、と問われて、いえそんなことありません、と言ってから、それではまいります、と飛びかかられても、ガバッときたとは言えない。
(んー……)
「アキラくん。私、最近、情緒がおかしいの」
「はい……」
鼓動が一度強く打ったが、「はい」はただの相づちですよね、と解釈して極力気にせず、
「じゃ、おかしいついでに言うけど」
軽い咳ばらいで絡みつく喉を整えた。割り座のままだが、背すじも伸ばし、居ずまいをただしてみせる。
「脅迫に応じなかった結果、警察につかまって、犯罪者になっても、一緒にいたいと思ってくれますか?」
「はい」
「警察につかまらなくても、会社にいられなくなって、職を追われても、一緒にいたいと思ってくれますか?」
「はい」
これは、相づちではなく、肯諾とみて間違いなさそうだった。
「誓える?」
「はい」
信頼には信用が必要だが、信用には確証が必要だ。
「じゃ、証明して」
「証明?」
「なんで好きか言えないなら、アキラくんがしたいようにして」
ここでようやく、アキラは――ガバッとこなかった。
ゆっくりと、膝でにじってきた。
彼の下躯では、ズボンの前窓が開いて、神殿の域内が垣間見えているのであるが、全体的な清婉さは失われていなかった。
「だ、だから、そんなことしたら……」
「あー、もうっ!」
ミサは話しているあいだ、何度も耳へ髪をかけていたが、いったん両手で顔を覆い、髪をすべて後ろへかきあげた。
「メチャクチャにしてっ、って言ってるのっ!」
マンガの中で、女性登場人物がイケメンへ向かって同じセリフを吐いている切片には、けっこうな心当たりがある。
そんな不用意なことを言っていいものだろうかと、読むたびに欲情の中にも心配が影を落としたものだったが、いざ自分で言ってみると、そんな懸念はまったく芽生えないのだった。
だが、マンガの中のイケメンは、そのひとことでガバッとくるものだったが、アキラはこなかった。
「……、……えっと、アキラくん」
「はい」
「いま私、相当な恥ずかしさをおして、言ったんだけど?」
「ご、ごめんなさい」
「あやまられると、よけいにこたえちゃうんだけど?」
「ご、ごめんなさい」
「それでも、ガバッとこないの?」
「い、いえ……」
ガバッとこないのか、と問われて、いえそんなことありません、と言ってから、それではまいります、と飛びかかられても、ガバッときたとは言えない。
(んー……)
「アキラくん。私、最近、情緒がおかしいの」
「はい……」
鼓動が一度強く打ったが、「はい」はただの相づちですよね、と解釈して極力気にせず、
「じゃ、おかしいついでに言うけど」
軽い咳ばらいで絡みつく喉を整えた。割り座のままだが、背すじも伸ばし、居ずまいをただしてみせる。
「脅迫に応じなかった結果、警察につかまって、犯罪者になっても、一緒にいたいと思ってくれますか?」
「はい」
「警察につかまらなくても、会社にいられなくなって、職を追われても、一緒にいたいと思ってくれますか?」
「はい」
これは、相づちではなく、肯諾とみて間違いなさそうだった。
「誓える?」
「はい」
信頼には信用が必要だが、信用には確証が必要だ。
「じゃ、証明して」
「証明?」
「なんで好きか言えないなら、アキラくんがしたいようにして」
ここでようやく、アキラは――ガバッとこなかった。
ゆっくりと、膝でにじってきた。
彼の下躯では、ズボンの前窓が開いて、神殿の域内が垣間見えているのであるが、全体的な清婉さは失われていなかった。

