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こじらせてません
第4章 拘繋
よく思い出してみたら、初めてアキラと交わった時と同じ体勢だった。あのときは突如の裂痛が襲って卒倒したが、今は別の理由でシャギーラグへ卒倒した。

手で支えていられなかったからである。

アキラが覆いかぶさって、追いかけてきた。それも同じだった。

痛みはまったくないうえに、ラテックスも遮っていないから、奥地を圧迫されると生粋に性感を刺激される。

「ミサさんのこと、そんなふうに一度も思ったことないです」

そんなさなか、アキラの声が聞こえてきた。
彼の声も、熱く潤っていた。

「……。どんなふう?」
「さっきミサさんが言ったこと、ぜんぶです」

苦手なオープン質問を、小ずるく克服された。

「イ、イタイタしくなかった?」
「いいえ、うれしかったです」
「……うれしかったの?」
「はい。いつも僕のこと、たくさん、考えてくれてるんだなって思ってます」

胸の内と下腹に電荷の変位があった。

「い、いつもエロいこと考えてるって、思わないで」
「はい。思ってません」

回顧すると、淫猥なことを考えていたことが多い。

「か、簡単にナマでさせてもらえる、とか、思わないで」
「はい、思ってません」

希望を伝えたのはミサのほうである。

「……え、えっと……、この人、お、おし、おしりで、したいんだなって思わないで。おしりは、コワいの。でも、脇の下なら、痛くなさそうだし――」
「はい、思ってません」

脇の下なら思ってくれてもいいのに。

優先度の高低が混在していたが、アキラの答えはすべて肯諾だった。

「それから……」
「あと、なんですか?」

――いつぞや「愛されナントカ」というフレーズが、やたらに流行った。

「愛されコーデ」だとか、「愛されヘア」だとか、「愛されアイテム」だとか、通勤時に電車の吊り広告を眺めれば、愛され、愛され、とやたらにうるさかった。

もちろん、「愛されメイク」もあった。ミサが企画し、商品化されたコピーに用いられたときは、内心腹立たしかった。

愛されナントカは、女性向けのコピーにしか用いられない。女は愛されなければ価値がないのですからね、と言われているように思えてしかたがなかった――

「じゃ、何を思ってるの?」

……。

万人に愛される必要はなかった。アキラの返答が、囁きで聞こえてきたから、ミサは過去の憤りを、地平の彼方へと蹴とばした。
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