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こじらせてません
第1章 捕縛
以上が、いまミサが広報スペースへ呼び出されているあらましだったが、

「ちょっと、自分で言い出したくせに、来るのがおっそいわよ」と理絵子は文句を言ってから、隣の客人に向かって、とびきりの笑顔を向けてみせた。「ねー?」

客人が来るなら、来る、と先に言っておいて欲しかった。
理絵子と違って、ミサには文句を言えるだけの真っ当な理由があった。

しかし、なんでもあるのに「何でもない」と言った手前、再度足を踏み出して彼女たちの前に立ち、軽く会釈をしただけだった。会釈が終わったので目線を上げ、腕組みをした理絵子の抜かりない化粧ぶりの面を見る。改めて鑑賞・評価しようというわけではない。

「チーフ様のご要望にお応えして、ちゃーんと手配しましたよ? この子です」
「こんにちは」

客人が挨拶をした。

「……こんにちは」

間があったのは、今の時間にふさわしい挨拶は、むしろ「おはようございます」ではないのかと迷ったわけではない。挨拶をする時は、その相手に目を向けるべきであったから、目を向ける。

(うおっ……!)

近くで見ると声が出そうだったが、出さなかった。

客人は笑顔だった。傲然として挨拶する人は、前の日か、そこに至るまでの間に何事かあった人だ。爽やかな時を過ごしてきたのであろう客人へ向けて、金曜に何事かあったものの、社会生活を過ごせるだけの平常心は取り戻していたミサは、傲然とはしなかったが、ぎこちない笑みを浮かべた。

そしてこちらへ向かう途中、やたらGJが送られた理由を了解した。送り主は、当社で圧倒的に多い女子社員ばかり、そういえば、安原からはGJをもらわなかった。彼女たちはこの客人を見たのだろう。どんだけ言い回ったんだ、と思われるほどの理絵子の吹聴から、誰もが、この客人が何用きたのか、わかったはずだ。

理絵子の人望に問題でもあるのだろうか、それとも、理絵子も朝から再三GJをいただいているのだろうか、手配したのは理絵子であるのだが、そもそも発想したというミサも、称賛に値する仕事をした、と評価されていたわけだ。

確かに、見ていて心地よい男の子である。
平たく言えば美少年だ。

「んっと、山本くん、ね」
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