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こじらせてません
第1章 捕縛
「あ」美少年はブレザーのポケットを探り、紙片を取り出すと、「F大学付属高校の山本アキラ、です」
……最近の高校生は名刺をもっているのか?
「うおっ……」
今度は小さく声が出た。幸い、二人には聞こえない程度に。
『山本 有明煌』
ホンモノのキラキラネームだった。煌、きらめく。
「明」の字の読みはどこへいってしまったのだ、と問いたくなるが、そう読ませるのである。それこそが、キラキラネームたるゆえんだった。この名を名刺でもって名乗られると、ホストみたいに思えなくもない。しかし「ホストみたいだね」という戯れ言をいきなり言うのは相手が本気に取ってしまう惧れがあるから憚られるし、ホストクラブに行ったことがないので実際にそれが正しいのかは定かではないし、まずもって、まだミサは名乗ってはいなかった。
「商品企画開発部の高橋です。よろしく……」
最初の挨拶であるから「よろしくおねがいします」なのか、年上なのだからもう少しフランクに「よろしくね」なのか、語尾が迷われたあまり間があいてしまって、もはや付すには不自然な時間になってしまった。不自然になるだけならまだよかったが、横柄な言いぶりになったことが悔やまれた。
「どお? カッコいい名前だよねー。ホストみたいだって言われるでしょ?」
あっさりと理絵子が言うと、「よく言われます」と、照れたような、実に可愛らしい笑みを浮かべたものだから、ミサの後悔は増大した。
「んで、チーフ様、名刺は?」
笑顔のまま、理絵子が言う。
「あ、ごめんなさい、……忘れたかな」
「そんなミスしないんじゃない? いつもポッケに入れてるじゃん」
ミサが嫌がることが大好きな理絵子に助言されては、一応ジャケットのポケットを探るしかなかった。名刺入れが指に当たる。当たるだけならよかったが、金属製のそれが、小さく爪に鳴ってしまった。
「……やっぱり、あった」
「でしょー?」
嬉しそうだ。ワクワクしている。
働くようになって回数を忘れてしまうくらい名刺交換をやってきた。だから慣れっこだ。
そう言い聞かせても、今までで最も、渡すことがためらわれた。
背を伸ばし、両手で名刺を支えてアキラの前に差し出す。背すじが丸まらないように倒すと、ストレートの髪がはらはらと前に落ちてくる。
……最近の高校生は名刺をもっているのか?
「うおっ……」
今度は小さく声が出た。幸い、二人には聞こえない程度に。
『山本 有明煌』
ホンモノのキラキラネームだった。煌、きらめく。
「明」の字の読みはどこへいってしまったのだ、と問いたくなるが、そう読ませるのである。それこそが、キラキラネームたるゆえんだった。この名を名刺でもって名乗られると、ホストみたいに思えなくもない。しかし「ホストみたいだね」という戯れ言をいきなり言うのは相手が本気に取ってしまう惧れがあるから憚られるし、ホストクラブに行ったことがないので実際にそれが正しいのかは定かではないし、まずもって、まだミサは名乗ってはいなかった。
「商品企画開発部の高橋です。よろしく……」
最初の挨拶であるから「よろしくおねがいします」なのか、年上なのだからもう少しフランクに「よろしくね」なのか、語尾が迷われたあまり間があいてしまって、もはや付すには不自然な時間になってしまった。不自然になるだけならまだよかったが、横柄な言いぶりになったことが悔やまれた。
「どお? カッコいい名前だよねー。ホストみたいだって言われるでしょ?」
あっさりと理絵子が言うと、「よく言われます」と、照れたような、実に可愛らしい笑みを浮かべたものだから、ミサの後悔は増大した。
「んで、チーフ様、名刺は?」
笑顔のまま、理絵子が言う。
「あ、ごめんなさい、……忘れたかな」
「そんなミスしないんじゃない? いつもポッケに入れてるじゃん」
ミサが嫌がることが大好きな理絵子に助言されては、一応ジャケットのポケットを探るしかなかった。名刺入れが指に当たる。当たるだけならよかったが、金属製のそれが、小さく爪に鳴ってしまった。
「……やっぱり、あった」
「でしょー?」
嬉しそうだ。ワクワクしている。
働くようになって回数を忘れてしまうくらい名刺交換をやってきた。だから慣れっこだ。
そう言い聞かせても、今までで最も、渡すことがためらわれた。
背を伸ばし、両手で名刺を支えてアキラの前に差し出す。背すじが丸まらないように倒すと、ストレートの髪がはらはらと前に落ちてくる。