この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
こじらせてません
第1章 捕縛
あまり倒し過ぎるとゴッソリ前にやってくるから、どのあたりで止めるべきかは心得ていた。しかし慢心してはいけない。これまでで最大の注意を払った。
「商品企画開発部の高橋──」
「はーい、アキラくん。何て読むでしょー」
理絵子が遮った。
前に落ちた髪に隠し、ミサは眉間を寄せた。
前を向けない。
視界に映っていた名刺を、繊麗な指が摘み取っていく。
「高橋、……ミサさんですか?」
そのとおり、あたり!
即答に、そう叫ぶ代わりに、ハッと前を向いてしまった。特に驚きも嘲りもなく、アキラは名刺を渡した時のはにかみのままだった。理絵子を一瞥すると、ミサの代わりにこちらが眉間を寄せている。
「ステキな名前ですね」
ミサは前に落ちた髪を耳にかけ直し、「そんなこと言うなんて、本当にホストみたいだね」──とは言わなかった。
ステキ?
「聖」はまだ太刀打ちできると思う。だが「煌」を前にして、「餐」が歯が立つとは思えない。
「でもアキラくん、気をつけてね。このデカいオネーサン、下の名前で呼ぶとゴキゲン悪くなるよー」
期待された出来事が起こらなかったから不服だったのか、理絵子がアキラへよけいな忠告をした。特にデカいはよけいだった。
「別に、機嫌なんか悪くならないから……」理絵子に便乗してしまおうか、どうしようか、よろしくのミスを挽回していたほうがいいように思うが、いきなりフランクに変わるのはいかがなものだろうか、いや、いつもは度肝を抜いてしまうが、アキラは抜かれていないっぽい、ところで、アキラと同じくらいの背丈に見えるが、ヒールがあるから本当は自分の方が低いことをわかっているだろうか、まあ、少なくともデカい件については気にしていないようだし、今がチャンスだろう、「大丈夫だよ、アキラくん」
よかったです、と笑った歯が、煌めいたのかと思った。
実際、まるで不機嫌にはなっていない。むしろこれからも彼をファーストネームで呼んでも差し支えない呼称関係になったことが、極めて喜ばしかった。
「商品企画開発部の高橋──」
「はーい、アキラくん。何て読むでしょー」
理絵子が遮った。
前に落ちた髪に隠し、ミサは眉間を寄せた。
前を向けない。
視界に映っていた名刺を、繊麗な指が摘み取っていく。
「高橋、……ミサさんですか?」
そのとおり、あたり!
即答に、そう叫ぶ代わりに、ハッと前を向いてしまった。特に驚きも嘲りもなく、アキラは名刺を渡した時のはにかみのままだった。理絵子を一瞥すると、ミサの代わりにこちらが眉間を寄せている。
「ステキな名前ですね」
ミサは前に落ちた髪を耳にかけ直し、「そんなこと言うなんて、本当にホストみたいだね」──とは言わなかった。
ステキ?
「聖」はまだ太刀打ちできると思う。だが「煌」を前にして、「餐」が歯が立つとは思えない。
「でもアキラくん、気をつけてね。このデカいオネーサン、下の名前で呼ぶとゴキゲン悪くなるよー」
期待された出来事が起こらなかったから不服だったのか、理絵子がアキラへよけいな忠告をした。特にデカいはよけいだった。
「別に、機嫌なんか悪くならないから……」理絵子に便乗してしまおうか、どうしようか、よろしくのミスを挽回していたほうがいいように思うが、いきなりフランクに変わるのはいかがなものだろうか、いや、いつもは度肝を抜いてしまうが、アキラは抜かれていないっぽい、ところで、アキラと同じくらいの背丈に見えるが、ヒールがあるから本当は自分の方が低いことをわかっているだろうか、まあ、少なくともデカい件については気にしていないようだし、今がチャンスだろう、「大丈夫だよ、アキラくん」
よかったです、と笑った歯が、煌めいたのかと思った。
実際、まるで不機嫌にはなっていない。むしろこれからも彼をファーストネームで呼んでも差し支えない呼称関係になったことが、極めて喜ばしかった。