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こじらせてません
第1章 捕縛


誰かが悶絶していれば、その姿を見た人は「どうしたのだろう?」と気を揉むだろうが、一人暮らしであるから、誰に迷惑をかけるわけでもない。

「うう……」

誰かが呻いていれば、その声を聞いた人は「苦しいのだろうか?」と体調を慮るだろうが、一人暮らしであるから、誰の救助の手も煩わせるわけではない。

ミサはベッドの上でブランケットにくるまり、転がっていた。「身体を投げ出し、横臥していた」という静的な意味ではない。あてられた用字のとおり、ゴロゴロと左右に身を捩る、動的な状態だった。

(キュンキュンするぅ……)

誰かがキュンキュンしていても、それは外見的には判断しづらいことであるから、一人暮らしはもう関係なく、誰一人あずかり知らぬことである。

漢字を用いない、この副詞は語義が難しい。

ミサの部署で、アキラは商品企画の社会学習に取り組んでいた。グループメンバーは全員女性だった。部屋の中でアキラ一人が男性である。

常に囲まれていた。

囲むという状態は、複数人によって成し遂げられる。ミサの部下たちは、普段の声音を見事にチューンして、持てる知識を総動員し、壁を成し、企画業務の何たるかを教えていた。プロ意識とやらが、どれほどあるかは不明だ。しかしアキラにかまけ、自分たちの仕事がおろそかになるようなことはなかった。かまける時間を確保するために、むしろ生産性は上がっていた。ミサの生産性は下がっていたが、総体としては上がっていたのだから、業務上は喜ばしいことだった。

ミサも彼を取り囲む壁の一部になりたかったが、チーフという役職をいただいている立場上、そうはいかなかった。

普段のミサの仕事ぶりから、普段の声音をチューンして、普段部下に手を差し伸べる以上の手厚さを見せたなら、部署全体が音を立ててドン引きし、普段よりも総体の生産性が下がってしまっていただろう。ただしミサは生産性についてはこれっぽっちも気にしてはいなかった。古くからミサの性根に横たわる矜持が、壁の一部へ加わることを良しとしなかっただけだ。これが大きい。
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