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こじらせてません
第1章 捕縛
さて、転がるのを一旦停止したミサは、部下に撮ってもらった写真をスマホの画面に映し出した。何の疑いもなく、彼はレンズを向いて微笑んでいる。

この写真を手に入れた理由は、もっと近くで見たいという情動と、副次的には、生産性の低下を防ぐためだった。そのはずだ。

顔の前に携帯を掲げ、近くで見る。
息をつくと、溜息が熱くなっているのが自分でもわかった。

「──ミサさん」

アキラが切なげな声を漏らした。
名を呼ばれたわけだが、許す。安原とはわけが違う。

「ん? どおしたの?」

ミサは委細に気づいていない……フリをして、アキラの潤んだ瞳を見つめ返した。ミサを見つめながら、彼の唇が少し開閉したが、最終的には、言いたい言葉は飲み込まれた。

彼の頭を抱えるようにして髪を撫でる。柔らかな感触が心地いい。僅かに震えている。怯えている。ミサのことが怖いのではなかった。吐こうとして飲み込んだ言葉が、年上の女を不快にさせてしまうのを怖れていた。

「どおしたのかなー……?」

含み笑いをし、爪先を彼の頰から喉元、胸元まで辿らせた。ポイント、ポイントで、びくっ、ぴくっと震えている。頭を強くロックしているわけではなかったが、彼は逃げようとしない。

「あれー? なんかピクピクしちゃってるけど?」
「んっ……、ミ、ミサさ、んっ……」

ミサは垂れ落ちていた髪を耳にかき上げた。大して髪はジャマではなかったが。

「はっ……」

形の良い彼の小鼻が動く。そうそう、いい匂いしますよね?

「ね、さっき何言いかけたの……?」

はずかしげだ。はずかしいことを言おうとしたのだろう。だから、声をひそめ、囁いてやると、

「も、もう、ガマン、で、できないよ……」
「だーめ。ちゃんと、言って?」耳に唇を近づけ、「何がガマンできないの?」

問い直すと、いっそうアキラは赤らんだ。

「触り……、たいです」
「やだ、何かんがえてるの」
「ううっ……、ご、ごめんなさい。だ、だって……」
「だって?」

縋るようにジャケットを握っている彼の拳を解き、袖から外す。もう一方の手首も持ち、自分の腰の後ろで握らせる。
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