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こじらせてません
第1章 捕縛
しかし結果は、未経験が原因となるリスクは軽減され、個別具体的な女を憂慮する必要もなかった。

望ましい最良の結果が得られたわけであるが、やはり情動とは不思議なもので、それでミサの気分は晴れ渡ったわけではなかった。不特定の女に対する不条理な敗北感は、予想以上にミサを苛んだ。しかし不条理と直感している通り、原理を解明したところで、払拭に資するとは思えなかった。そもそも余裕のなかったミサには、解明するだけの余裕はなく、髪をかき上げただけだった。

そんなミサをよそに、アキラは体に這わされるもう一方の手の指先によって、震えていた。アンダーシャツに現れた二つの尖りへ不条理な敗北感を逃していたが、視線を感じて見上げると、瞳が潤んでこちらを向いていた。顎を少し上げる。アキラは乳首に送り込まれる不条理な敗北感を焦燥に変え、ミサの唇へと返してきた。

リビングで交わしたよりも、唾液で湿っている。唇が開き、舌が伸びてくる。

どうやらこれが、その3のキスというものだった。

「んっ……!」

おずおずと差し出した舌縁がなぞられていくと、両側の耳下が滲みた。溜息に呼応してアキラの唾液が流れこんでくると更に滲み、ミサは密かに喉を動かして嚥下した。

「た、高橋さんっ」
「……。名前がいい」

理絵子の下らないアドバイスが、アキラを間違わせ続けていた。家族を除けば、初対面から、アキラだけに許していたのに。

「んっ、……ミ、ミサ、さん」

(ううっ……!)

体の奥が動いた。毎夜の舞台で名を呼んでくれていたアキラの声は、実際に耳元で聞いてみると、はるかに強くミサを潤わせた。

もっと強く唇を押し付けたくて、彼に体重をかけようと身をひねると、密閉させた脚の付け根がヌルリとした。

(ひゃっ!)

重心が崩れてアキラの上体が少しグラついた。

具体的体重は意識してはいけない。力学的エネルギーの面でも解釈不要である。
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