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こじらせてません
第1章 捕縛
問い直すと、彼の耳先が赤らんだ。

「触り……、たいです」
「やだ、何かんがえてるの」
「ううっ……、ご、ごめんなさい。だ、だって……」
「だって?」

シーツについていた手首をアキラに握られていた。線の細い少年だったが、握る力は強かった。体を探る度に強まる圧に心を潤ませて、ミサは彼のアンダーシャツを捲った。

「めくって」
「う……」
「自分でめくって。両手で持ってて」

ミサの視線を浴びせられる羞恥に眉を寄せながら、アキラは首下まで自分のアンダーシャツを捲り上げた。まだジャケットもシャツも羽織っていたが、上躯が晒される。

(すごく、キレイ……)

マンガの中の登場男性は、皆、美しい体をしていた。弛んでいるわけでもなく、痩せぎすでもなく、細マッチョというとかえって安っぽくなる体躯の表面には、斑もムダ毛もなかった。絵に描くとしたら、まさにあのマンガのように描くしかない、理想的な体をしていた。

「手、離しちゃだめだよ?」
「そっ、そんなっ……!」
「離したら、おしまいにするからね?」

また髪がぱらぱらと落ちてきた。かきあげようかと思ったが、目の前に広がる美しい景色に吸い寄せられた。

胸板で双つ、息づいている尖りの一つに、口づけをする。

「はっ、……あっ!」

彼が声をあげた。その声に隠れて、ミサも喉の奥で声をあげていた。

吸着音を立てて吸い付く。唇が外れてしまいそうなほど跳ね上がる。舞台の中の彼よりもずっと敏感だった。

「もおっ、じっとして」
「うっ、ああっ、ミ、ミサさぁんっ」

彼の声は切なげに蕩けている。

(……おいしい)

良識が求められるべき一人の大人として社会から扱われている女が、少年の乳首に吸い付いた感想としては、甚だ不適切ではある。そもそも吸い付く行為じたいが不適切なのかもしれないが、それはともかく、表層上は一つの形容詞をあてたものの、内実は、彼が生身であることを主張する匂いと、舌触りと、味覚芽への刺激に対する心からの感嘆だった。

一人暮らしの部屋で一人でおらず、女あるじは少年の体にのしかかって乳暈を吸っているが、その感想が聞いてすぐには内実の伝わらない、ともすれば不快を催させるものであったのだとしても、声に出して言ったわけではないのだから誰の迷惑も省みる必要はない。
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