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こじらせてません
第2章 馴致
自撮りをして大丈夫な顔を送ってやれば安心するのかも、とも考えたが、帰宅ラッシュは終わったものの周囲にはまだ人が多くいる中、早足から一転足を止め、自らに向かってスマホを掲げる行為は見る者しだいでは意味不明である。

意味不明な行為は、為し手が無関係であればあるほど、見る側の不快感を生む。

急いではいても、それはわかったのでやめておいた。

「……とにかく、ホントに大丈夫だから。心配しないで」

自宅に帰ってから折り返す、という手もあったが、ミサは採用する気になれなかった。急いだ末にもたらされるだろう結果が、そうはさせなかった。

「そんなこと言ったってね、ミサ、あのね、お母さんもね……」

こういう場合、母親の方が長々と詮索してくる。同性であるからなのか、そもそも標準的な母親とはそういうものなのか、ミサの母親がそういうものなのかはわからないが、ともすれば、子供時代のことまで持ち出してまで話を継いでくる。

母親の隣で耳をそば立てている、父親の臆病さが原因なのかもしれない。だが、それを質す時間も、父親を勇敢にしてやる時間もない。

「んっと……」ただ形容動詞を繰り返すのでは、ラチが開かない、具体例を挙げてやる必要があると思ったので、「あ、そうそう、ペットを飼うことにしたの。一緒にいると癒されるし、面倒をみてあげなきゃだから、クヨクヨしていられない。だから大丈夫」

母親はしばし、絶句した。
絶句の理由を、ミサは、あっ、と察した。

隣の父親へ、ひそひそと何か伝えている。何となく話を盛られている気がする。聞いた父親が母親へ何か言っているが、うまく聞き取ることはできなかった。

「だからね、ちょっと仕事遅くなって、急いでるから、切るね。ホントに、大丈夫だから」
「あっ、ミサ――」

切った。

問答無用で電話を切断する、という行為は決して誉められたことではない。そんなことはわかっている。

だが、急いでいた。
ウソはひとつもついていない。両親だから、きっとわかってくれるだろう。
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