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こじらせてません
第2章 馴致
突如立ち止まるのは、見る者しだいはおろか、アキラにとっても意味不明だが、この件に関しては、ミサはそうせざるをえなかった。

「ミサ、さん?」
「……、……」しばらくして肩をすくめ、「……ちょっとびっくりした。外でそんなこと言うんだもん」

再び歩き始める。

本当に、そんな言葉を要求していたわけではなかった。
正直、バスト目線でばかり、話、聞いてました。

アキラがたまにやらかす、不意打ちだった。

「ごめんなさい。ダメ、でしたか……?」
「んーん、ダメなんて言ってない」

ダメなもんか。むしろ奨励する。
ただちょっと、脳と、下着の中が、「もうダメ」な感じになってきている。

マンションに着いた。

エントランス前で一旦手を離そうと思っていたが、あふれてきている我欲を押し通した。いつも萎縮する警備員が今日は恐縮した。彼らには住人に対する守秘義務があるはずだから問題なかろう。ミサは笑みを口元に湛えた会釈をし、アキラをエレベーターへと導いた。

エレベーターの中でも、くっついていた。
扉が開いた向こうに誰かが立っているかもしれなかったが、会社を出る前に髪を上げ、たくらみに満ちた丸出しのうなじに彼の息を感じた気がして、手を離しがたかった。

「──でも、たしかに、お腹すいたかな」
「うん……、お仕事ごくろうさま」
「ありがと」

自宅のドアの前に来ても、右手も左手も離さないでいると、合鍵でアキラが鍵を開けた。

一人暮らしの部屋へ二人で帰ってきて、ドアが閉まれば、はた目にはいかなる意味不明な行為であっても、誰に迷惑をかけるわけでもない。また、はた目には意味不明に見えてはいても、ミサの頭の中とスカートの中には、しかと意味が潜んでいた。

「んっ、ミ、ミサさん……、ごはんは……?」

パンプスも脱がずに、彼の体に飛びつく。

「うん。アキラくんを、食べちゃいたい」

密室となった一人暮らしの部屋なのだから、そば耳を立てれば意味不明な発言でも、誰に迷惑をかけるわけでもない。
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