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こじらせてません
第1章 捕縛
「大丈夫だから。自分で言うのもなんだけど、これでも結構もらってるんだ。お金には困ってない。それに……」
もう少しわかりやすく、明瞭に伝えてやる必要があると思った。
「赤ちゃんのことを考えると、何も責める気にはなれないの。新しい命のお父さんとお母さんが誰かに咎められるなんて、あまりにも可哀想でしょ?」
すると、黒居の瞼がぴくぴくと震え、由美子がグスグスと鼻を鳴らした。
「君はなんて……、慈悲深い人なんだ」
慈悲?
何かズレているような気がするが、では何なのかと言われると、適切な語が見つからないし、黒居も由美子も収まりがついたようだから、あえて否定はしなかった。
「ということなので気にしないで。私は大丈夫。本当に、赤ちゃんのためにも、お幸せにね」
念押しをして、立ち上がろうとして、
ウーロン茶が目に入り、
黒居には金がないことを改めて思い出し、
半分も飲んではいなかったが千円札を置き、
安心して立ち上がって、
何か言われる前に店を去った。
──そして自宅に着いた。
タイトスカートを脱ぎ、シワにならないようクローゼットに吊る。ブラウスを脱ぎ、襟、袖口に部分洗い剤を塗ってネットに入れると、ソフト洗いモードで洗濯機をスタートさせた。先にシャワーを浴びるべきか。それとも空腹で眠れないのはよろしくないから、少し食べるべきか。食べるならば、早い時間のほうがいいだろう。キャミソールと下着姿だが一人暮らし。誰に迷惑をかけるわけでもない。
……いや、その前にやることがあるんだった。
リビングに戻り、部屋の中を眺めた。
ソファに置いているクッションのうち、くつろぐ時に使う最も大きな物は買ってから随分と経って中綿が弱っている。
買い替えを検討して問題ない。
「なっ、……なっ、……っ!」両手で布地をしっかり掴み、力いっぱい引っ張った。「うう……」
三度も力を加えたが、引き裂くことはできない。あきらめた。
代わりに、ふりかぶって壁へ投げつけた。
「……なにしてくれとんじゃぁあっ!!」
衝動は収まらず、暴虐を加えるつもりのなかった別のクッションも手にとって振り回し、同じく壁に投げつけた。
もう少しわかりやすく、明瞭に伝えてやる必要があると思った。
「赤ちゃんのことを考えると、何も責める気にはなれないの。新しい命のお父さんとお母さんが誰かに咎められるなんて、あまりにも可哀想でしょ?」
すると、黒居の瞼がぴくぴくと震え、由美子がグスグスと鼻を鳴らした。
「君はなんて……、慈悲深い人なんだ」
慈悲?
何かズレているような気がするが、では何なのかと言われると、適切な語が見つからないし、黒居も由美子も収まりがついたようだから、あえて否定はしなかった。
「ということなので気にしないで。私は大丈夫。本当に、赤ちゃんのためにも、お幸せにね」
念押しをして、立ち上がろうとして、
ウーロン茶が目に入り、
黒居には金がないことを改めて思い出し、
半分も飲んではいなかったが千円札を置き、
安心して立ち上がって、
何か言われる前に店を去った。
──そして自宅に着いた。
タイトスカートを脱ぎ、シワにならないようクローゼットに吊る。ブラウスを脱ぎ、襟、袖口に部分洗い剤を塗ってネットに入れると、ソフト洗いモードで洗濯機をスタートさせた。先にシャワーを浴びるべきか。それとも空腹で眠れないのはよろしくないから、少し食べるべきか。食べるならば、早い時間のほうがいいだろう。キャミソールと下着姿だが一人暮らし。誰に迷惑をかけるわけでもない。
……いや、その前にやることがあるんだった。
リビングに戻り、部屋の中を眺めた。
ソファに置いているクッションのうち、くつろぐ時に使う最も大きな物は買ってから随分と経って中綿が弱っている。
買い替えを検討して問題ない。
「なっ、……なっ、……っ!」両手で布地をしっかり掴み、力いっぱい引っ張った。「うう……」
三度も力を加えたが、引き裂くことはできない。あきらめた。
代わりに、ふりかぶって壁へ投げつけた。
「……なにしてくれとんじゃぁあっ!!」
衝動は収まらず、暴虐を加えるつもりのなかった別のクッションも手にとって振り回し、同じく壁に投げつけた。