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こじらせてません
第2章 馴致

出版元のジャンル設定が不足していると思われた。希求心が刺激されるあまり投書をしようかと思ったが、優先されるべきことではないから思いとどまった。
自分の理想の能動的行動が行われるよう、アキラをしつけることが、彼との関係性における最優先事項であった。
アキラは彼氏であり、ペットである。
ミサはアキラの彼女である。
アキラはペットなのであるから、ミサはアキラの主人である。
「彼氏ができた」という所感は誤りだった。
彼氏はペットであり、ペットは主客体固有の属性ではなく、両者の関係性において定義されるのだから、二人のあいだで連綿と続く行動と制御のもとで初めて成立する。
一人暮らしの部屋ではないトイレの個室の中で、ミサは、瞬時のうちにこれらを思い出した。
そして激怒していた。
個室を出た後も、激怒は続いた。
アキラの行動は、ミサの意図にそぐう能動的行動ではなかったからである。
訊かなければわからないが、ワンちゃんには訊くすべはない。アキラには訊くすべがある。
『おとつい』
ミサは、そこまでフリックして、削除した。
何度も打ち直した。
ア行とタ行に指跡が残っていた。
自席に戻っても、再び個室に入っても、やった。
おそらくは、終業後に一人暮らしの家に帰ってからも、やりそうだった。
今日はアキラは来ない。
家の用事がある、と言っている。
激怒が不安に変わっていった。
『ペットとの間には信頼関係が必要である』
これもまた、世間一般に共有されている。
不快な切片を受け取る直前まで、個室の中で妄りに思念できたのは、彼に信頼を感じていたからだというのに、これがミサの中で非常に危うくなっていた。
信頼とは心の一状態だ。
この状態は、信用によって維持される。
信頼には信用が必要だが、信用には確証が必要だ。
ミサには確証が不足していた。
自分の理想の能動的行動が行われるよう、アキラをしつけることが、彼との関係性における最優先事項であった。
アキラは彼氏であり、ペットである。
ミサはアキラの彼女である。
アキラはペットなのであるから、ミサはアキラの主人である。
「彼氏ができた」という所感は誤りだった。
彼氏はペットであり、ペットは主客体固有の属性ではなく、両者の関係性において定義されるのだから、二人のあいだで連綿と続く行動と制御のもとで初めて成立する。
一人暮らしの部屋ではないトイレの個室の中で、ミサは、瞬時のうちにこれらを思い出した。
そして激怒していた。
個室を出た後も、激怒は続いた。
アキラの行動は、ミサの意図にそぐう能動的行動ではなかったからである。
訊かなければわからないが、ワンちゃんには訊くすべはない。アキラには訊くすべがある。
『おとつい』
ミサは、そこまでフリックして、削除した。
何度も打ち直した。
ア行とタ行に指跡が残っていた。
自席に戻っても、再び個室に入っても、やった。
おそらくは、終業後に一人暮らしの家に帰ってからも、やりそうだった。
今日はアキラは来ない。
家の用事がある、と言っている。
激怒が不安に変わっていった。
『ペットとの間には信頼関係が必要である』
これもまた、世間一般に共有されている。
不快な切片を受け取る直前まで、個室の中で妄りに思念できたのは、彼に信頼を感じていたからだというのに、これがミサの中で非常に危うくなっていた。
信頼とは心の一状態だ。
この状態は、信用によって維持される。
信頼には信用が必要だが、信用には確証が必要だ。
ミサには確証が不足していた。

