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こじらせてません
第2章 馴致
言いがかりなのか、やつあたりなのか、わからなかったし、どうでもよくなった。
少年は未熟であるから、テキストだけでは彼女の猜疑と寂しさを勘づいてはくれなかった。

ミサは息をつくと、部下を見回した。

「ちょっとこれから早退させて。なんかあったら携帯まで。この結果は、また明日じっくり見ます」

差し迫ったタスクはない。部下たちも、とりわけ異論を表さなかった。

体調を慮られただけだった。女性ばかりの職場だから、女性特有の体調不良に関しては敏感で鷹揚だ。

だから、イエスともノーともつかぬ返事をしても、受け入れられた。トイレの利用頻度と利用時間も奏功したのかもしれない。

ミサは会社を出た。

普段利用しない、黄色い地下鉄へ乗り込む。
トンネルを進むと窓が鏡となって、吊り革を掴む自分の姿が映った。

隣には、大学生と思しき女の子が立っていた。
自分との高低差が浮き彫りになる。
彼女が操作しているメッセージ画面が、少し目線を下げただけで覗けてしまうほどだ。並んで立っているから、相対性がはたらいている。

……自宅へ向かう途中、手をつなぎ、ついでに二の腕にもつかまってベタ付きになったとき、言いがかった。

そんなふうには思ってない、と言った。
ではどんなふうに思っているのか、と問うたら、黙った。

どんなふうでもいいから言えと詰め寄ったら、手をつなげて、寄り添うことができて嬉しいと言った。そして、不意打ちを食らわせた。

そして、その時に述べたことも思い出された。

相対的に、身長差がさほどなくても、くっつけているので、嬉しい。
相対的に、年齢差があっても、大人っぽいと感じることができるので、嬉しい。
相対的に、承認欲求から発揚された美に、価値を見出せるので、嬉しい。

だから好きなのだ、という。

それを世間では「妥協」というのだ。
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