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こじらせてません
第2章 馴致
一人暮らしの部屋ではない、帰宅ラッシュ前とはいえ結構な乗客がいる地下鉄の車内だったが、ミサは思念を口から発しているわけではなかったので、迷惑がかからないかわりに、それは言い方しだいだと指摘する者もいなかった。

しかし、そんなことを考える前からミサの頭の中で、車内の誰でもない、何者かが、「舞い上がってんじゃねえよ」と声をかけていた。

むしろ、その声に導かれて思念していた。

終盤を迎えているとはいえ、彼は思春期只中である。

ミサは女性であるから、最中の男性のそれがいかなるものかを体感していない。

だが、性的興味と経験との間のギャップを埋めたい、強い渇望が生じる年代であることは予想できた。

思春期の男性のそれは、しばしば対象との関係性を追い越してしまって、行為そのものへの傾斜を深めてしまうことも、よく言われることであった。

社会学習に行った先は、年上女性ばかりの場所だった。

そのうちの一人が、たぶらかしてきた。明らかに、ソノ気だ。

身長も、年齢も、美観も許容範囲だ。
乗った。

高校生にして干支が同じ女とつきあうことには、それなりのステータスを感じる。

見てくれ的にも、同年代と比べて、様々なギャップを満足させてくれそうだ。

だが、つきあって一週間ばかり、会っていない日のほうが少ないのに、いまだにアイマスクをさせて、他人に見せない場所を一つも見せてくれない。

思春期にとっては、視覚的刺激も性的興奮には重要なのだ。

めんどくさ。

――ミサは、ついに渋谷に降り立った。

ここに至るまで、飛んでいる矢を何本も止めてきたミサは、とりあえず歩き始めた。

ハチ公の姿に、街路樹の下で立っていたアキラを思い出し、懐旧と羨望がないまぜになった気持ちになる。

台風だろうが、ハロウィンだろうが、いったいそこに何があるというのやら、やたらめったらテレビ画面に登場する横断歩道へ向かう。

そこに何があるのかといえば、群衆だった。
平日の中途半端な時間なのに、あらゆる方向に歩いている。

カカッ――
広場の手前で立ち止まった。

会社を早退して、確証を得にきた。
地下鉄に乗っていると、状況証拠がいくつも思い浮かんだ。
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