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こじらせてません
第2章 馴致

6
洗面台の前で話していた者を、しっかりしろ、と溜めた水へ顔を浸けてやらねばなるまい。
ともあれ、そんな女の子――というよりも、便宜上、心の中でそう呼んでみただけであって、どう見ても女の人がミサの足をとどめさせたのだが、それはほんのいっときの混乱だった。
家の用事。
見るからに「女の子」ではない、明らかに自分よりも年上の「女の人」。
お母さん、と見るのが妥当だった。
(へー、キレイな人だなー……)
ついさっき、相対的に「惨敗感はまるでない」とか思ったのに、妥当性が確保されたとたんに、そう思えた。
アキラはしょぼくれた頭を撫でられている。
テストの点でも悪かったのだろうか。
もうF大への進学が決まっているのだから、テストの点は気にしなくていい。
そう思ったが、それはあくまでもミサの言い分だった。
そうこうするうち、ミサは当然の罪悪感とへと苛まれていった。
――アキラは「ウソはついていなかった」。
彼の前に飛び出し、己の不実を詫びるべきだと思った。
私を殴って。力一杯。
悪い夢を見ていたの。
勇者は親友を信じて走ったが、自分は彼氏を信じられなくて走った。なかば暴走だ。
(んー……、でも、お母さん、か……)
ミサは勇者ではなかった。
泣いて詫びに出ると、今ここにいるのを知られてしまい、法律に抵触するの恐れたのではない。
泣いて詫びに出る誠意が、彼氏の母親の前に名乗り出る緊張に負けただけだ。
自分の意気地のなさを恥じているうち、アキラたちは去っていった。
そして――
一人暮らしの部屋で一人、誰にも迷惑をかけずに、後悔と自己嫌悪のために溶けていると、
『やっぱり、今から行ってもいいですか?』
とメッセージが届いた。
ミサは時計を見た。
溶けすぎて時空を認識できずにいたが、もう夜の八時を回っていた。
来るといつも、アキラはとても名残を惜しんで、終電近くまでいる。いてくれる。
しかし……、今日は母親の顔を見てしまったし、胸がモヤモヤしていた。
洗面台の前で話していた者を、しっかりしろ、と溜めた水へ顔を浸けてやらねばなるまい。
ともあれ、そんな女の子――というよりも、便宜上、心の中でそう呼んでみただけであって、どう見ても女の人がミサの足をとどめさせたのだが、それはほんのいっときの混乱だった。
家の用事。
見るからに「女の子」ではない、明らかに自分よりも年上の「女の人」。
お母さん、と見るのが妥当だった。
(へー、キレイな人だなー……)
ついさっき、相対的に「惨敗感はまるでない」とか思ったのに、妥当性が確保されたとたんに、そう思えた。
アキラはしょぼくれた頭を撫でられている。
テストの点でも悪かったのだろうか。
もうF大への進学が決まっているのだから、テストの点は気にしなくていい。
そう思ったが、それはあくまでもミサの言い分だった。
そうこうするうち、ミサは当然の罪悪感とへと苛まれていった。
――アキラは「ウソはついていなかった」。
彼の前に飛び出し、己の不実を詫びるべきだと思った。
私を殴って。力一杯。
悪い夢を見ていたの。
勇者は親友を信じて走ったが、自分は彼氏を信じられなくて走った。なかば暴走だ。
(んー……、でも、お母さん、か……)
ミサは勇者ではなかった。
泣いて詫びに出ると、今ここにいるのを知られてしまい、法律に抵触するの恐れたのではない。
泣いて詫びに出る誠意が、彼氏の母親の前に名乗り出る緊張に負けただけだ。
自分の意気地のなさを恥じているうち、アキラたちは去っていった。
そして――
一人暮らしの部屋で一人、誰にも迷惑をかけずに、後悔と自己嫌悪のために溶けていると、
『やっぱり、今から行ってもいいですか?』
とメッセージが届いた。
ミサは時計を見た。
溶けすぎて時空を認識できずにいたが、もう夜の八時を回っていた。
来るといつも、アキラはとても名残を惜しんで、終電近くまでいる。いてくれる。
しかし……、今日は母親の顔を見てしまったし、胸がモヤモヤしていた。

