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薔薇色に変えて
第2章 寂しそうな客

戻るはずの会社には緊急事態発生で直帰しますと電話を入れ、
訳を聞こうという社長の声に素早く挨拶の言葉を返し電話を切った。
傍らでその様子を窺う男の瞳には、特に後ろめたさとか薄暗さだとか、
さっきの行為の余韻をまったく残さないような平坦さが見えた。
・・ようやく落ち着いたのかしら・・
私はもう彼の腕から手を離していた。
男も振り返りながら前を行く私の後を、渋々といった感じで、
でもちゃんとついてきていた。
このままここを通り過ぎるはずだったのに、とフッとため息をもらし、
いつもよりも威勢よくドアのカウベルを鳴らした。
「こんにちは!マスター!マスター!」
狭い店の中で、おまけに従業員は小此木さんしかいないっていうのに、
人ごみをかき分けるような勢いで声をかける。
何事か、と読んでいた新聞の向こうから顔をのぞかせる小此木さんは、
私達2人の姿を見て目と、そして口までまん丸くあけていた。

