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薔薇色に変えて
第1章 喫茶・薔薇色
そして・・介護を始めてから8年。
父は亡くなった。
冷たい塊と化した父の穏やかな死に顔を見つめながら、
糸のような涙を静かに流した。
その時の涙は、死んでしまった悲しみだけじゃない。
やっと終わった、という安堵感、肩の荷を下ろせたことへの安堵感も
含まれていたに違いない。
その後は母と2人の暮らしがはじまり、少しは自由に飛び回れるかと喜んだが、
いざ表に出てみても、若い頃の様な刺激も甘酸っぱさも
味わうチャンスに出会えなかった。
そんな中年になった娘を不憫に思ったのか
母は見合い話をまわりに頼んでいたようだが、
実際に見合い写真を渡された事は無い。
「静恵に良い相手ってなかなかいなくて。年齢的に、ね」
その申し訳なさそうな言い方が、かえって私の心をえぐった。
私の相手なんかいないんだって。
別にいいわよ、一人だって、そう鼻を鳴らしながら笑って見せたが、
本当は大きなため息をついてやりたかった。