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禁煙チュウ
第5章 デート
「えっ、なっ、雪乃っ?」
俺が無様に慌てている間に、雪乃の目からはどんどん大粒の涙が落ちていく。
なんでなんで、なんなんだ急に、と思う俺の横を石井が通り過ぎる。

「これ、どうぞ」
石井は雪乃の手にをハンカチ握らせると、俺を見て
「また今度にしましょう」
と言って歩き去ろうとした。

「いやちょっと待って」
思わず石井の腕を掴む。

石井は一瞬俺を強く見つめて、
「わたしは大丈夫ですから。雪乃さんと話した方がいいと思います」
ときっぱり言った。

雪乃を振り返る。
手の中のハンカチを見つめたまま泣き続けている。
あぁ。

通り過ぎていく人の視線が刺さる。
俺は石井の腕から手を離し、
「……ごめん、また、連絡する」
と告げた。
はい、と石井が小さく返事をする。

こっちを見ずに、じゃあ、と言って石井が駅に戻っていく。
店では見たこともない、ワンピース。いつもパンツなのに。
細かいプリーツのスカートが揺れながら遠ざかっていく。

石井を見送る俺の服の裾を、雪乃が掴んだ。
「ごめん、なんでだろ、ごめんね」

その顔は本当にすまなそうで、なぜか俺の胸まで詰まった。
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