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禁煙チュウ
第5章 デート
ローテーブルにコーヒーの入ったカップを置くと、雪乃は「ありがとう」と弱々しく微笑んだ。涙は止まったけれど、泣いていたことが解るようにはっきりと目元が赤い。
テーブルの前にちょこんと座る雪乃を見て、こんな小さかったっけ、と思う。
雪乃はいつもハキハキしてて、別れる時でさえ(振る立場だったのもあるだろうけど)涙を見せなかったのに、今は目を伏せてカップを両手で握り、なみなみと入ったコーヒーを口もつけずにじっと見つめている。

その顔を正面から見るのは何だか気が引けて、俺はテーブルの対角の位置に座った。
十畳のワンルーム、広めのロフトがあって男一人の暮らしには十分。だけど雪乃が部屋に座ると妙に存在感があって急に部屋が狭くなった気がした。
雪乃を近く、感じる。
ごまかすようにカップのコーヒーに口をつける。
まだ熱い。

付き合ってた時にも何度も来たことがあるこの部屋を、かわらないねぇ、と雪乃が眺める。
首を伸ばすとアップにまとめたところから、髪が一束さらりと肩に流れ落ちた。
白い首筋に目が行く。

……いかん。
俺はぎゅっと目をつぶり、首を振った。

「ほんとにごめんね。今日は、あの子とどこか行くつもりだったんだ?」
「うん、まぁ」
「そっか」

「……付き合ってる、の?」
カップを持つ手がピクリと震える。
雪乃がそれを見るのが解る。
「いいや、まだ」
「まだ……」
俺の言葉を雪乃が意味深に繰り返す。
もちろん、俺もそういう意味を含ませたつもりだ。
それで察してもらおうというのはやっぱり卑怯だろうか。

「気になってる、すごく。まだ、そんな知ってるわけじゃないけど」
俺は言い直す。なるべく正確に伝えたくて。
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