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17歳の寄り道
第12章 【村上編】自覚
「俺も研究所でがんばるから。お前もがんばれ」

すると、浅野が目を見開いて組んでいた足を解く。

「…え?センセー辞めんの?」

「ああ。ここにいるのは1学期までだからな。お前がいなくなったらすぐ俺も消えるんだよ」
「…………」
「俺は、やりたい事をやるよ。お前もそうしろ。お前らはまだ何も始まってないし、何も終わってない」


浅野の、色素の薄いその瞳が赤くなったのが目に入った。
すぐに顔を伏せて、見えなくなったが。

「泣いとけ。母ちゃんの前では泣けねえんだろ」
「………」
「辛かったら、いつでも連絡しろ。―――昨日の事は、白川を責めないでやってくれ。事故のようなもんだから」
「……事故とか言うなよ。思いつきで生徒に手ー出してんじゃねえよロリコン…」

顔を伏せながら涙声で言い返してくる。

「大丈夫だよ。もう、お前を裏切らないから………すまなかった」


浅野は何も答えなかった。
進路指導室の窓から見える風景は、若葉が萌え、新緑の山々が広がっていた。成長著しい緑は、まるで学園の生徒たちのようだ。


白川はその日休んでいた。
少しためらったが、晩にメールで様子を窺ったら、すぐに電話が掛かってきた。


『先生…昨日はごめんなさい』
真っ先に謝る白川。先に謝ろうと思っていたのに。

「いいや。俺こそ…大人げないことをした。本当に…悪かった」

『私が望んだ事だよ、先生…。謝らないで。先生は何も悪くないよ』

何も悪くないわけがない。俺も望んでいたのだ。結ばれる事を。


これから、俺が彼女にしてやれることは………
大人として、未来に導くことだ。

「もう、辛くてもふらふらするなよ。それと…もう少し浅野の事、信じてやりなさい」

最後にそう言い、電話を切った。

俺は、確かに彼女を好きだった。
最初、彼女に詩織を重ねていたことも、滑稽で笑えて来る。

「さあ……煙草吸ってから仕事するか……」

バルコニーに出て煙草に火をつける。細く浮かぶ三日月が俺を睨み、春の夜空に無数の星が散りばめられていた。

これからは、やりたかった研究をして、自分の人生を歩んで行くのだ。

俺も、何も終わってはいない。
ただ前に進むのだ。
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