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17歳の寄り道
第20章 【碧編】窮地
「先生、遥に連絡したい…」
「俺からはしておいたよ。始発でこっち向かうって言ってたから…まずは、凛太君の安否を確認しよう」
「うん、……そうだね」

頭の中が、黒いインクを垂らされたように、汚く混ざりぐちゃぐちゃになる。
またぽろぽろと涙が落ち、震える手でそれを拭うと、村上先生は私の髪を撫でる。

「待ってて」と、家の中に入って行った。



……一人になると、怖い。


思い出すたびに恐怖が何倍にも増幅されて、もう一生忘れることはないのではないかと言うほど、記憶に刻み込まれてしまう。

ふっと頭に浮かぶのは、遥でも、先生でも、お母さんでもなく、義父が私に仕掛けた、淫らな行為に、下品な顔。



気持ち悪……

私は胸元をぎゅっと握り、長く息を吐いた。





少し経ち、村上先生が車まで戻ってくる。

「……やっぱり、お父さんはいないみたいだ。凛太君は二階で寝ていたけど、ここに置いておくわけにもいかないから……白川も、今はここにはいられないだろう」

無理。
今だって、義父がいつどこから現れるかわからなくて怯えているのに……。



ここに残されるのを想像したら、こんなに震えるのかというぐらい、歯がカチカチとなるほど体が震えた。そんな私を見て、村上先生はまた電話を掛ける。
私の肩をゆっくり擦りながら。


「あ、村上です。……すみません、今、家の中を見せてもらったんですが……」

先生の手に、少し呼吸が楽になる。
母の受け答えが時折受話口から漏れ聞こえてきた。取り乱しているようには聞こえない。間を置いて冷静になったのか…

「お母さんが戻られるまでの間、二人とも俺の家で預かります。帰って来られる時にまた連絡いただけますか。……はい。一度碧さんに代わります。………白川、お母さん」

村上先生の黒いスマホを、震える手で受け取って、耳に当てる。


『碧?……ごめんね、お母さんのせいで……』


母の涙声は、無条件に涙腺を刺激して、涙が止まらない。
ぎゅっと目を瞑り、声を上げて泣いた。


「おかあさん……おかあさん…」


母は、泣きじゃくる私に、泣きながら「ごめんね」と繰り返していて、村上先生は酷く悔しそうにその場で俯いていた。
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