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17歳の寄り道
第26章 【碧編】夢か幻か
私が家に戻った時には、もう義父の姿はなかった。
遠方にある実家に戻ったそうだ。

最初は、母に「家を借りるから金を出してほしい」と言ってきたらしいが、母はその場ですぐに義父の両親に連絡を取り、義父が実家に帰る形で収まったらしい。

母は私には隠していたが、おそらく奴が私にした仕打ちを向こうに話したのだろう。
そうでないと、こんなに早くまとまるわけがないと思った。


当面は、別居生活となる。母子3人で暮らして行く。
離婚の話が出ているかどうかはわからない。
母もまだ混乱している様子でもあったし、私も不安定だったから、2日間でここまで対処出来た事に、ひとまず安堵した。

母の目は腫れていた。殴られたわけではなくて、泣き腫らしたような、そんな目をして。

「村上先生に叱られたよ。私が碧に甘え過ぎだって。……でも、先生が言ってたこと、当たってるの。私が、あんたに何も言えなくさせてたね。ごめんね」

迎えに来てくれた日、母は、そう言って謝ってくれ、涙を止められなかった。

凛太は早めに薬を飲めたことで、熱も引いてきていた。
遥のお陰だ。

その代わり、元気になったら家の変化に気づいたらしく「おとうさんは?」と頻りに尋ねてくる。私は何も答えたくなくて、黙って凛太を抱きしめた。
土曜日だったので、母は仕事が休み。夜は寝室で3人で寝た。

義父が寝ていたそこで寝るのはとても嫌だったが、自分の部屋で寝るのはもっと嫌だった。
窓から義父が入ってきたらどうしようなどと考えてしまって、息苦しくなってしまうのだ。


「碧。ここにおいで」

母が、私を布団に招き入れた。反対側には凛太が寝ていて、こうして家族で一緒に寝るのはとても久しぶりで、母に引っ付いていると、やっと眠りにつくことができた。

おかあさんは…こんな匂いだったな。
おかあさんのぬくもりが、こんなに温かくて、こんなに安心するものだったなんて。

これがほしくて、私はずっといい子にしてきたんだ。


17歳。凛太みたいに、無邪気に母にまとわりつく事はできないけれど。

夜中ふと襲ってくる恐怖に目が覚めても、母が隣でいてくれるのが分かると、再び目を閉じることができた。
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