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17歳の寄り道
第26章 【碧編】夢か幻か
「……そうだったのか。…悪いことを聞いたな。じゃあ、車出すよ」

せっかく会えたのに、先生はとてもそっけない。
もう、私に会う気はなかったのかもしれない。
忙しいから連絡がないのだと思っていたが、私にはもう、関わりたくなかったのかもしれない。

私を家に送る手間だけを増やして…。余計な事をしてしまった。
さっきバスで走った国道を、先生の車で走り抜ける。

「お母さんは、何度か連絡くれてたよ。秋の終わりに決着したんだろう」
「……はい」

そっけない先生に委縮して、うつむきがちに返事をした。
別に、家に上げてほしかったわけではない。しかしこんなにすぐ返されると、寂しいものがある。


すぐに家の前に車が着いた。
降りる前に、ずっと聞きたかったことがある。


まさかこんな、泣きそうな気持ちになりながら尋ねることになるとは思ってもみなかった。


「先生は私に会いたくなかった…?」

唇を噛み締めて、先生の顔をまっすぐに見る。
先生は、少し目を泳がせたけど、口元に手をやって、無言で私を見つめ返した。


「私は、会えて嬉しかったよ。迷惑だったならごめんなさい…」

「迷惑じゃないよ」とすぐに遮られるが、温かみはない。

「でも………」

反論を阻むように大きな手が私の髪に触れ、長い指が頬を辿った。
触れられた場所から、ぞわぞわとした感覚が巡る。


「いきなり来るからさ…」
「それは…ごめんなさい…」
「白川が、元気そうでよかったよ」


寂しげに目を細めた先生を見て、反射的にその長い指を握り、唇に当てた。


「おい…」
「先生のこと、何度も思い出してたの」
「……また不安なのか」

先生の溜息に切なくなった。
春の頃のように不安で抱いてほしいわけではない。先生に会いたかったのだ。

私は小さく首を振り、先生の指に頬を擦りつける。

「ううん。もう、あんなに陥れられるような不安はない。それより、聞きたかったことがあるの。先生、夏に、私のこと……」


先生はいらないって言っていたのに、スニーカーを返したかったのは、きっと私が先生に会いたかったから。


義父がもたらす恐怖も、苦くて情欲的だった初恋も、何もかもが消えて、最後にひとつ、私に残ったもの。

―――それは…
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