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17歳の寄り道
第27章 【村上編】冬
――あの日、私のこと、好きだよって言ったのは、夢?

変わらない黒く大きな瞳をまっすぐに俺に向ける。

傷ついた姿も、あんなに乱れた姿も知っているのに、とても無垢な眼差しをしているのが不思議でならない。

まだ、あの夏から半年足らずしか経っていない。
仕事に忙殺されていた俺にとっては、今年の夏なんてついこの前の出来事のようだ。
……しかし、もう会ってはいけないと思っていた。

浅野にも、白川にも、幸せになってほしい。その気持ちに偽りはない。そして、これ以上自分の心を掻き乱されるのも限界だった。

半年ぶりに見る白川は、形のいいふんわりとした唇を噛み締め、質問に答えない俺を見上げている。
ここは彼女の家の前だ。誰かに見つからないうちに彼女を返したい。

白川は起きていたのか。
あの時、かろうじて踏みとどまった俺を知られていたなんて。
最後まで情けない自分が滑稽で、吹き出した。

「え…えっ?何で笑うの?」

白川がおろおろしている。当然だ。

お前らのように、“好きでした。今も好きです。”
なんて、俺は言える立場にないんだよ。

若い奴らといると、自分まで同じステージに立っていると錯覚する。
もう終わったんだ。俺は。浅野の味方だと約束した。

「――いや。それよりも、浅野と別れたってどうして?」

若さが苛立たしくて、わざと踏み込んだ質問をした。
本当はそんな無粋な事は聞きたくなかったが、まだ成熟するに至らない彼女を、未だに性的な目で見ていた自分への戒めとしても聞いておきたかった。

白川は、気まずそうに話し始める。
「私も、遥も、疲れてたの」という前置きから始まった内容は、浅野が俺との仲を疑っているというものだった。

「はは…俺のせいか」

あまりにも滑稽過ぎて、乾いた笑いしか出ない。
幸せを願っていた二人に亀裂を入れたのは、俺だったのか。

「違うよ、先生のせいじゃない」

白川は慌てて俺の腕を揺するが、その手を取って首を振った。

「違わないよ」

何も違わない。
浅野は、俺の心の奥に隠していた想いを察知していたのだ。

新しい仕事と研究に打ちこみ、封じ込めようとしていた厄介な感情をいとも簡単に掘り起こされてしまう。
白川はこの狭い車中の空間で、彼女特有の甘い香りを振りまきながら俺のケチくさい本心に向き合おうとしてくる。

――だから、会いたくなかったんだ。
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