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17歳の寄り道
第38章 【千晴編】スタートライン
「俺も話していいか」
先生は、サイドボードにある合鍵を見る。
話し出すのに少し間が置かれ、抱かれていた肩から先生の手が離れ、私の手を取って先生の膝に置いた。
「……一度、ご両親へ話を通したい。勢いで一緒に住むのは避けたい。秘密にするわけにもいかなくなるけど――。籍入れる覚悟はできてるか?」
籍――。
「にゅ、入籍ですか!?」
取り乱しながら聞くと、先生は小さく頷いた。
「先生がいいなら、私は覚悟できてます。うちの親もですが……先生は惇君とか元奥さんには、お話するんですか?」
「家内はとっくの昔に再婚してるからな。惇には話をするつもりだけど……まずは千晴のご両親だろう」
あ、そ、そうだったんだ。
奥さん、再婚してたんだ……。
今日という日は…ケンカして、出てって、戻ってきて、さっきまで結婚の話を切り出すことすら怪しい感じだったのに。
急展開に頭がついて行かない。
でも、先生は合鍵を渡すなら筋を通そうと考えていたようで、その思いに胸がいっぱいになった。
先生が私の顔を見て、頬を伝う涙を指で拭ってくれた。
「あ。すみません。今日は泣いてばっかり……」
「いいよ。陰で泣かれるよりは、ここで泣いてくれたほうが」
優しくされると涙が止まらなくなる。
「……俺はきっと千晴より先に死ぬし、元気でいられる時間も限られてるかもしれない。これから、もし結婚したとしても、いつ介護になるかわからないけど、いいのか」
ご両親を亡くした先生の言葉は、重みがある。
それでも、先生がいいの。
先のことは、私は多分今はわかっていないし、実感もない。
でも、そんな理由で諦められるなら、こんなに好きになってないから。
「それなら、尚更早く家族になりたいです。待ってる時間がもったいないです。先生が早く死んじゃうなら、早くしないと……」
私なりの真剣な返事だったのに、先生は笑いを堪えていた。
「え、嘘。私真剣なんですけど!」
「いや……。嬉しくてつい。ありがとう」
ふたりが一緒にいるために、大事な人に話をしないと。
泣くのは、それからでいい。
女将さんが言ってくれた台詞を心の中で反芻する。
私の人生が大きく動きだそうとしている。
先生と手を取って歩んで行けたら、きっと悔いはない。
先生は、サイドボードにある合鍵を見る。
話し出すのに少し間が置かれ、抱かれていた肩から先生の手が離れ、私の手を取って先生の膝に置いた。
「……一度、ご両親へ話を通したい。勢いで一緒に住むのは避けたい。秘密にするわけにもいかなくなるけど――。籍入れる覚悟はできてるか?」
籍――。
「にゅ、入籍ですか!?」
取り乱しながら聞くと、先生は小さく頷いた。
「先生がいいなら、私は覚悟できてます。うちの親もですが……先生は惇君とか元奥さんには、お話するんですか?」
「家内はとっくの昔に再婚してるからな。惇には話をするつもりだけど……まずは千晴のご両親だろう」
あ、そ、そうだったんだ。
奥さん、再婚してたんだ……。
今日という日は…ケンカして、出てって、戻ってきて、さっきまで結婚の話を切り出すことすら怪しい感じだったのに。
急展開に頭がついて行かない。
でも、先生は合鍵を渡すなら筋を通そうと考えていたようで、その思いに胸がいっぱいになった。
先生が私の顔を見て、頬を伝う涙を指で拭ってくれた。
「あ。すみません。今日は泣いてばっかり……」
「いいよ。陰で泣かれるよりは、ここで泣いてくれたほうが」
優しくされると涙が止まらなくなる。
「……俺はきっと千晴より先に死ぬし、元気でいられる時間も限られてるかもしれない。これから、もし結婚したとしても、いつ介護になるかわからないけど、いいのか」
ご両親を亡くした先生の言葉は、重みがある。
それでも、先生がいいの。
先のことは、私は多分今はわかっていないし、実感もない。
でも、そんな理由で諦められるなら、こんなに好きになってないから。
「それなら、尚更早く家族になりたいです。待ってる時間がもったいないです。先生が早く死んじゃうなら、早くしないと……」
私なりの真剣な返事だったのに、先生は笑いを堪えていた。
「え、嘘。私真剣なんですけど!」
「いや……。嬉しくてつい。ありがとう」
ふたりが一緒にいるために、大事な人に話をしないと。
泣くのは、それからでいい。
女将さんが言ってくれた台詞を心の中で反芻する。
私の人生が大きく動きだそうとしている。
先生と手を取って歩んで行けたら、きっと悔いはない。