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17歳の寄り道
第41章 【千晴編】秋
先生は、何も言わずに惺に歯固めを持たせて抱き直した。

先生がオーダーしていた、レモンが一切れついたコーラが半分残っているのを見て、先生もゆっくりできずにずっと惺を見てたんだろうなと気付く。

「ケーキはいらないのか」と先生が言うが、「いらない。おっぱい詰まるから」と愛想なく答える。

「何なら詰まらないんだ」
「……ゼリーとか?」
「メニューにコーヒーゼリーがあるけど」
「カフェインあるからコーヒーはだめ」
「……」

会話終了。
何でも自分を律して、だめだめばかりで、最近はこんな調子だ。


「じゃあ、何か買って帰ろう。家でゆっくりするか」

先生はコーラを飲み干した後、片手で惺を抱き上げて、もうひとつの手でベビーカーを押して店を出る。
「これ」と大きな黒い財布を渡され、それで支払いをした。

お店を出て、「ごちそうさまです…」と財布を返すと、ふっと笑われた。
家計費はもらっているけれど、なんかデートっぽい…。

「手ぶらで歩くの久しぶりだろう。すぐには、母モードから切り替えられないかもしれないけど」
と言う先生。
いつも私と惺の事を考えてくれているのに。
私は、優しくないなぁ……。

とぼとぼと歩いていると、かしゃんと歯固めが落ちた。
ホールドしていた紐ごと…。

「ああっ、もう、洗って来なきゃ」
「いいよ。俺が行ってくるから」

先生は慌てる私を制し、惺を片手に抱いたまま紳士用のレストルームに入って行った。

お出かけしたらしたで、結局息詰まっちゃって。
家にいるほうがマシかも、なんて思ったりもして。
余裕のない自分が嫌になる。

高級果物屋さんにてお高いフルーツゼリーを買って、駐車場に戻る。
惺をチャイルドシートに座らせ、先生が運転席、私が助手席に座った時、先生がぼそりと言った。

「俺は、千晴が一番きれいだと思ってるけど……それだけじゃだめなのか?」

不意をつかれて顔が熱くなった。
私がラウンジで聞いたこと、覚えていたんだ。

「……だめじゃない」

先生は口角を少し上げながらエンジンをかけ、後ろでは惺がまどろみ始めている。
発進する前に先生の手を握ったら、ぎゅっと握り返してくれる。
手の温もりに、心からホッとした。

「帰るか」
「うん」

帰ろう。
私たちの家に。
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