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難問 -兄妹の領域境界-
第15章 音楽の鑑賞と実技
2年に1回行われる発表会で兄が弾く曲はたいてい練習曲か勢いのある技巧を駆使するタイプの曲だった。
表情豊かという言葉とは程遠い兄らしいとその時は思っていた。

中学3年の時、兄のクラスの合唱コンクールの曲目がモルダウだった。
もちろん周りは兄がピアノを弾けることは知らない。
中学校では、たいてい合唱コンクールのためにクラスに必ずピアノを弾くことができる生徒を何人ずつか分散させる。
そのため、もう一人のピアノを弾くことができる生徒が伴奏することになっていた。

そして、あと1週間で合唱コンクールという日に伴奏する予定だった生徒が右足を骨折してしまった。
手は無事だった。しかしこれでは伴奏は不可能だ。
ほかの曲であれば、ダンパーペダルを使わない曲であれば・・・可能だっただろう。
しかしモルダウはペダルを常時多用する。

焦った担任は、ピアノを弾ける生徒は一人ではなかったはずと、親が記載した家庭調査票を読み返す。
そして、習い事の欄にピアノと書かれていた紙を1枚だけ見つけることができた。
そこには「篠田佑人」と書かれていた。

その時の兄の担任はまさかと思いつつも藁にも縋る思いで、私に確認を取りに来た。

「君のお兄さんの調査票にピアノを習ってるって書いてあったんだけど・・・」

私は突然なぜ先生がそんなことを聞いてきたかはわからなかったが、特に気にせず返事をした。

「はい、私が幼稚園に入った時からずっと一緒に習っていますが・・・何かありましたか?」

突然、先生は笑顔で「ありがとう!」と言って、走って去っていた。
先生、廊下は走ったらいけないんだよ・・・と思いながら、いったい何だったのかと一瞬気になったがそのまま忘れていた、家に帰るまでは。


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