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難問 -兄妹の領域境界-
第15章 音楽の鑑賞と実技
「お兄ちゃん、お願いがあるんだけど」

「ん?」

「お兄ちゃんに、第一パートをお願いしたい」

合唱コンクールで弾いた大部分は、第一パート側が演奏する。
通常、男女の連弾では第一パートが女性、第二パートが男性であることが多いが決められているわけではない。
あの音をそばで聞くには、兄が第一パートにならなければ叶えられない。

祈るような想いで返事を待った。

「ダメだ」

「えっ、なんで」

「ダメなものはダメだ」

浮かれていた心は、引いた血の気とともに氷点下にまで下がる。
ここまではっきりと断られるとは思わなかった。
理由すら聞かせてもらえない。

「どうしてもダメなの?」

「ダメだ」

そこまで頑なに拒否する理由がわからない。
ショックに、涙が今にも零れ落ちそうになる。

「第二パートは、自分と第一パート両方のペダルを踏むんだぞ?」

「そんなのわかってるよ!私じゃ無理だって言いたいの!?」

思わず強くなる口調、必死に涙をこらえる。

「そうじゃない」

煮えたぎらない態度をとる兄、期待する気持ちが大きすぎたために私は自分を止められない。

「だったらいいじゃない!たまには反対のパートを経験するのもいい勉強になるんじゃないの!?」

「未由こそなんでそんなことにこだわる?そんなの次回でいいだろ」

私の強い口調に引きずられ、兄の口調も激しいものとなる。

「そんなこと」

私の大切な思い出を、そんなことって

「いつも通りのパートでしか俺は合わせない」

もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。なんかもういいや。

「もういいや、いう通りにする」

私はそう言って兄の部屋を後にした。

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