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難問 -兄妹の領域境界-
第3章 中学校の小テスト
折りたたみ傘を差しだすと、眉をしかめながら無言で受け取る。

「待ってろ」

そう言って、受け取った傘をロッカーにしまい戻ってきた。
一瞬私の前で立ち止まり、一瞥するとまたそのまま廊下へと歩き出す。

私は兄を呼んでくれた人に、軽くお辞儀をして兄を追う。

兄とともに歩く廊下は、来た時とは違い私たちを見た人はその場で固まっている。

「ねぇお兄ちゃん、学校で何かやらかしたの?」

「何も」

「ふーん。喧嘩はしちゃだめだよ?」

「そんなことするかよ」

(うん、知ってる・・・)

兄と学校で話をしている上に、並んで歩いていることに嬉しさが隠せない。
満面の笑みで会話を進める。

すれ違っていく人たちが固まっているのは、佑人の怖さだけでなくその隣で笑顔の未由がいるありえない光景を見ていることが理由と本人たちは気づいているのだろうか。

「そういえば、今日ピアノのレッスン日だよ。帰り待ってようか?」

私は吹奏楽部に入り、兄はバスケットボール部に所属している。
試合前なのか、終わる時間は兄のほうが遅い。

廊下とは違い、人がいない静かな階段をタンタンタンと上り兄を追い抜かす。

「いや、先帰れ」

言葉とともに兄の手が、私の頭をポンポンと撫でる。
不意の行動に、悟られないように兄を盗み見る。

(・・・っ!)

心臓の鼓動が周りに聞こえてしまうのではないかというくらい、一瞬跳ね上がる。

そこには普段の兄からは想像できないくらい優しいまなざしがあった。

(あの目で私は見られている・・・)

狼狽しそうになる自分を律して、何もなかったかのように振る舞う。

「はーい、先帰ってるね」

振り返って、笑顔で返事をする。
そこにはすでに、先ほどのまなざしはなくいつもの兄だ。

無表情で階段を上る兄の横に並んでまた上り始める。

「お前、俺の教室に二度とくんな」

「えー、それじゃぁ頼まれもの渡せないよ」

無言のまま階段を上り切り、廊下に向かうところで兄が立ち止まる。
つられて立ち止まって兄を見るが、進行方向を向いたままで横顔しか見えない。

「屋上」

「え?」

「昼休みは屋上にいるから」

その一言を発した後また歩き始めた。
小走りで追いかけ、またならんで歩く。

さっきは教室にいたではないか、ということは言わない。
兄がいると言ったなら、いるのだろう。

「はーい」
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