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喰われる人妻 菜穂
第1章 喰われる人妻 菜穂(1)
だがそこでも智明は世の中の厳しさを感じざるを得なかった。

良いと思った会社に10社程面接を受けに行ったが、すべてダメだった。

もちろん、それでも働ける場所が全くない訳ではない。

多くの事を妥協すれば、この不況の中でも雇ってくれる所はある。

でも、あまりに安い賃金では住宅ローンはとても払っていけないし、子供の養育費だって厳しい。

菜穂と沢山話し合って買った、こだわりの家。

菜穂が喜んでくれたキッチン、休日にはいつも智明が手入れしていた綺麗な庭、2つの可愛い子供部屋。

この家まで、手放さないといけないか。

どうしてこんな事に。

少し前まではあんなに幸せに暮らせていたのに。

しかし、それでも現実とは向き合わなければいけない。

菜穂はパートタイムで働き始めてくれていたが、智明も早く就職先を決める必要があった。


そんな中、前の会社で同期だった近藤という男から智明に連絡が入った。

近藤は智明よりも一足先に会社を辞め、すでに新しい会社に再就職していた。

それで近況報告がてら、久しぶりに一緒に飲まないかと。

正直今はのんびり酒を飲んでいる余裕などなかったのだが、再就職の事でなにか参考になる話が聞けるかもしれないと思い、智明は呼ばれた居酒屋に出向いた。


「おお、小溝!久しぶり!」


「久しぶり、元気そうだね。」


「ハハッ、まぁ、とりあえず一杯飲めよ。」


そう言ってグラスを智明に渡して瓶ビールを注ぐ近藤。

智明はそのビールに口を付けて少量だけ喉に流し込んだ。

元々そんなに酒は得意ではない智明。今は状況が状況だけに、特にこの酒は美味しくは感じられなかった。

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