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喰われる人妻 菜穂
第1章 喰われる人妻 菜穂(1)
「で、どうよ?最近調子は。」
「いや、それが……色々と厳しくて。」
「もしかして、まだ決まってないのか?再就職。」
「なかなかね。早く決めたいとは思っているんだけど。」
「そうなのか……意外だな、お前ならすぐに雇ってくれそうな所くらいありそうなものだけど。」
「その辺の事は少し甘く考えていたのかもしれない。まさかここまで再就職で苦しむとは思わなかったよ。」
「俺が2年前に辞めた時は今ほど悲惨な状況じゃなかったからすぐに決まったけど、やっぱり厳しいんだな、今は。」
「まいったよ、本当に。」
「悪かったな、そんな大変な状況なのに呼び出したりなんかして。」
「いや、いいよ、別に。」
「……ところで小溝、菜穂ちゃんは元気なのか?」
「菜穂?菜穂はなんとか元気でやってるよ。色々心配は掛けてしまっているけどね。菜穂のためにも、早く働く場所を決めないと……。」
それを聞いて、近藤は少し考え込むようにしていた。
そしてグラスに残っていたビールをゴクゴクと飲み干すと、こんな事を言い始めた。
「なぁ小溝、うちの会社で良かったら、人事の方に聞いてみようか?お前を雇えるかどうか。」
「えっ?いいのか?」
「ああ、うちの会社がお前が望む条件に合っているかどうか分からないけどな。」
「いや、頼むよ、ぜひ。」
近藤が再就職した会社は業界では結構大手だ。
正直智明は、早々にそこに再就職を決めた近藤の事が羨ましいと思っていたんだ。
「でもあんまり期待しないでくれよ。俺も人事に聞いてみないと、雇えるかどうかは全く分からないからさ。」
「聞いてくれるだけありがたいよ。ありがとう!本当に。」
「ま、俺も菜穂ちゃんが悲しんでる顔は見たくないしな。」
期待しないでくれよと言われても、期待してしまう。
もしこの話が良い方向に進んでくれれば、菜穂を安心させてあげられる。住宅ローンだって、どうにかなるかもしれない。
智明は心から近藤に感謝した。
だがしかし、智明はこの時思いもしなかった。
まさかこの話が、近藤の悪意に満ちたものであったとは……。