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喰われる人妻 菜穂
第11章 喰われる人妻 菜穂(11)
もしこの事を今智明に相談したら、智明は絶対に怒ってくれるだろうし、そんな事をする必要は全くないと言って私を守ってくれるに違いない。
例えそれで採用の話がなくなったとしても、智明は迷わずそうしてくれるはず。
でも、本当にそれでいいの?
菜穂は思い出していた。面接の後に智明が見せた涙を。
智明と知り合い、結婚してからもう何年も経つけれど、智明が泣くところを見るのはあの時が初めてだった。
いつも自分の前では優しい笑顔を見せてくれていた頼もしい夫。
そんな夫の心身ともに疲れて切った表情と、悔しそうに涙を流す姿。
きっと就職活動の間も、辛かったと思う。
社会から失業者として扱われ、男としてのプライドも傷ついたと思う。
もしこの採用の話がなくなったら……がっくりと肩を落とす智明の姿が思い浮かぶ。
菜穂はもう一度同じような苦労を智明にさせたくはなかった。
「奥さんの目を見れば分かります。本当は喉から手が出るほど旦那さんの採用が欲しいんでしょう?」
その通りだった。
天野の言葉は、誘惑に近かった。
菜穂の心の弱みを完全に突いている。
菜穂の夫に対する想いや優しさを、天野は見透かしているのだ。
「あっ……」
天野の手が、再び菜穂の内ももを触り始める。
「私を汚い人間だと思いますか?でもね奥さん、このぐらいのことは、社会じゃよくある事なんですよ。」
まるでドラマや漫画の中に出てくるセリフのようだった。
「奥さん、あなた次第です。奥さんが私の要望に応えれてくれれば小溝君は即採用だ。でもそれができないなら、この話は無かった事にさせてもらう、それだけです。」
〝この話は無かった事にさせてもらう〟
その言葉が、菜穂の胸に重く圧し掛かる。
私が今夜一晩だけ我慢すれば、智明は採用してもらえる。
智明がこれ以上再就職の事で苦労する事もなくなる。
私が我慢すれば……