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喰われる人妻 菜穂
第2章 喰われる人妻 菜穂(2)
「おかえりなさい。」
家の玄関のドアを開けると、エプロン姿の菜穂が迎えてくれた。
キッチンの方からは美味しそうな香りがする。
菜穂はこんな大変な時期でも家族の食事を全て手作りしてくれていた。
菜穂自身もパートの仕事や子育てで多忙だというのに、色々と工夫しながらお金の掛からない節約料理を家族のために。
食事の時くらいは美味しい物を食べて、笑顔になってほしいという菜穂らしい前向きな優しさだった。
その菜穂の優しさや、子供たちの笑顔が、どれだけ智明の心の支えになってきた事か。
しかし今日ばかりは、さすがにそんな料理でも喉をなかなか通ってはくれなかった。
食事やお風呂を済ませ、子供達を寝かせた後、智明は重そうに口を開いた。
「今日行ってきた面接の事なんだけど……駄目かもしれない。」
「ぇ……」
「たぶん今日の感じだと……採用はしてくれないと思う。」
「……そう、だったの……」
〝駄目かもしれない〟という智明の言葉に、菜穂もショックを隠しきれていなかった。
近藤から話があった時には、正直菜穂も期待してしまっていたのだ。これで決まってくれればと。
しかし菜穂は落ち込む智明の姿を見てしばらく考え込むようにした後、こう話し始めた。
「ねぇ智明、私……この家は諦めてもいいよ。私は子供達と智明が元気でいてくれれば、それだけで幸せだし。それに私も働けるし、きっと家族で協力していけば大丈夫よ。ね?」
そう言って菜穂は下を向く智明の手をとって、両手で包み込むようにして握った。
「……ぅ……ごめん……菜穂……」
「大丈夫、大丈夫だよ、智明。」
智明は菜穂の優しさに包まれながら、男泣きしていた。
ここ数年ずっと辛い時期を過ごしてきた智明、もう精神的に限界を超えていたのだ。
しかしそれから数日後、近藤から思わぬ連絡が入った。
なんと、近藤が天野部長との食事会をセッティングしてくれたのだと言う。
そこで採用について天野部長から前向きな話があると。
「それでな小溝、そこにはぜひ菜穂ちゃんも出席してほしいんだよ。」
「え?菜穂も?」
「あぁ、ぜひ夫婦で来てほしいんだ。その方が印象も良いと思うし。駄目か?」
「いや、そんな事はないけど……分かったよ、菜穂も一緒に行けばいいんだね?」
「あぁ、じゃあ頼むよ。」