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虹の彼方で
第15章 5月ラストの通り雨
暫くしてから、ゆっくり顔をあげたジョニーさんは、怖いほど真剣な顔をしてて。

私は、その言葉の意味を聞き返せなくて。

ただ、見つめ合って固まってしまった私達は、時間を忘れたみたいに動けなくて。



心臓の音がドンドン強くなって、

もう、ジョニーさんに聞こえちゃうんじゃないかって不安になる頃に、

ゆっくり、彼の顔が近づいてきて、

その手が、私の頬に触れた―――。





ガチャッ―――☆

「!」

「!」

「ただいま」

直後、リビングのドアの開く音に、私達ははっとして互いに視線を反らした。

慌てて立ち上がった私の視界に、タクミが欠伸をしながらダイニングルームへ入ってくるのが見える。

その向かいで、ジョニーさんが眼鏡をかけると、さっきまでのことが何もなかったようにキッチンへと歩みだした。

「お帰り、タクミ」

「おー。……夕飯、今日、誰?」

「僕。チャーハンと餃子、あとワンタンスープ」

「中華、いいな。腹減った。つか、すげぇ疲れた。ありえねーくらい良く喋る女だった」

「お客さん?」

「そ。……今、何時? あー、15分だけ寝てくる」

「ご飯できたら、起こしに行くよ。今日は、マサさんも少し遅いみたいだから」

「双子と翼は部活、か。……、美咲、お前、何やってんだ?」

「え?」

急に、話の矛先が自分に向けられて、私ははっとした。

「せ、洗濯バサミ、取ろうと思って……」

「ふーん?」

「シャワー室に服が干してあるから」

「へぇ」

適当な嘘で誤魔化す私に、タクミは興味なさげな返事をして2階へ上がっていく。

その姿を見送って―――。

キッチンで料理を始めるジョニーさんに、何か言おうとして……。

結局、何も言えなくなった私は、とりあえず、テーブルに置かれていたカバンを手にとると、一つ頭を下げた。

「あの……、カバン、拭いてくれて、ありがとうございました」

「……うん。美咲ちゃんも、少し休んでおいで。食事が出来たら、呼びに行くよ」

「はい」



ジョニーさんは、微笑みを感じる優しい声で告げてくれたけれど、

彼の顔を正面から見れなかった私には、

彼が、どんな顔をしているか、分からなかった―――。



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